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第160回研究会報告
第29回化合物新磁性材料専門研究会報告
「中性子による磁性研究の最近の展開とJ-PARC大強度中性子源の実現による今後の展望」

日時:2008年5月16日(金)10:00〜17:30
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:27名

 現在,平成20年秋の施設供用開始を目指し,東海村に建設が進められている大強度陽子加速器施設(J-PARC:Japan Proton Accelerator Research Complex)の物質・生命科学研究施設(MLF)では,世界最高レベルの大強度パルス中性子の利用によって,磁性研究の飛躍的な進展と,産業利用をも含むユーザーの広がりが期待されている.その半面,J-PARC/MLFとは何か,また,どのような装置があり,それらを使ってどのような磁性研究ができるのかなどの情報が浸透していないのが現状である.そのギャップを埋めるため,現在,国内外の中性子源を利用して研究を行っている第一線の研究者とMLFに装置を建設あるいは設置を計画している研究者を講師に迎え,中性子を利用した磁性研究に関する最新の研究成果の紹介と,大強度中性子源の実現による磁性研究の新たな展開について議論が行われた.

講演内容:
  1. 「量子ビームの調和的利用による磁性研究(中性子の役割とは?)」
    山田和芳(東北大)

     J-PARCに建設の進む世界最高強度のパルス中性子源の完成により,磁性研究にも大きなパラダイムが期待される.その一方で,中性子以外の量子ビーム(放射光やミュオン)による実験技術の発展も著しく,磁性研究に新たな展開を見せている.これらの量子ビームの調和的利用という観点から,これからの磁性研究にとっての中性子の役割を考える.
     
  2. 「JRR-3とJ-PARC/MLFを融合して開かれる物質科学」
    佐藤 卓(東大)

     J-PARC/MLFの完成により超強輝度中性子が利用可能になるが,これにより中性子散乱による磁性研究は此までにも増して進展するものと考えられる.本講演では,解析手法に主眼をおいて最近の進展を概観する.
     
  3. 「逆ペロブスカイト型マンガン窒化物の磁気体積効果 -磁気構造と局所構造との関わり-」
    社本真一1,飯久保智1,樹神克明1,竹中康司2,3,高木英典3,4(原子力機構1,名大2,理研3,CREST4)

     定常炉とパルス中性子源を用いることで,巨大負の熱膨張物質Mn3Cu1-xGexNは最近接スピン間にフラストレーションが存在するΓ5gの反強磁性磁気構造をとることが,また,二次相転移的に幅広い転移を示す組成ではMn6N8面体回転による局所構造歪みが見つかった.
     
  4. 「中性子反射率による磁性多層膜の磁気構造評価」
    平野辰巳1, 武田全康2(日立1,原子力機構2)

     磁気デバイスの性能向上には高度な磁気制御が必要で,その界面磁気構造評価は重要である.そこで,中性子反射率に着目し,スピンバルブ構造を適用例として,その磁気構造評価,中性子実験への期待について概要する.
     
  5. 「中性子小角散乱による永久磁石材料のナノ構造解析と保磁力機構」
    加藤宏朗(山形大)

     最強の永久磁石であるネオジム焼結磁石は,ミクロンサイズの主相結晶粒コアとそれを囲むナノサイズ厚みの粒界相シェルからなる複合構造をもつ.本講演では中性子小角散乱を用いてこの構造を解析し,その保磁力との関係に迫る試みを紹介する.
     
  6. 「フラストレーション系反強磁性体CuFeO2の中性子散乱と放射光X線回折による研究」
    寺田典樹(物材機構)

     フラストレーション系三角格子反強磁性体CuFeO2のスピン格子結合,新奇なスピン波励起,マルチフェロイックス的挙動について中性子散乱,放射光X線回折実験を用いて研究した結果を発表する.
     
  7. 「Ce化合物の隠れた秩序:中性子散乱による磁気八極子秩序の直接観測」
    桑原慶太郎(茨城大)

     短波長中性子を用いた実験により,「隠れた秩序」を示す典型例として知られていたセリウム化合物CexLa1-xB6のIV相では,Ceの4f電子の持つ「磁気八極子」による秩序化が起こっていることが最近微視的に明らかになった.その中性子散乱実験の結果について紹介する.
     
  8. 「スピン偏極中性子散乱法によるマルチフェロイクスの研究」
    佐賀山 基(東北大)

     マルチフェロイックス物質であるTbMnO3について偏極中性子回折実験を行い,螺旋磁気構造のスピンカイラリティーと強誘電分極の相関を調べた.自発電気分極がDzyaloshinsky-Moriya相互作用の逆効果によって発現していることを実験的に明らかにした.
     
  9. 「J-PARC,物質・生命科学実験施設が拓く新しい中性子散乱」
    中島健次(J-PARC)

     間もなく動き出すJ-PARC,物質・生命科学実験施設は世界最高クラスの核破砕中性子源を備える.そこに向けて建設,計画が進む最新の中性子実験装置の数々は新しい中性子散乱の可能性を拓くことが期待されている.
     
(文責:武田全康(原子力機構))