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第116回研究会/第3回磁性人工構造膜の物性と機能専門研究会
「MRAM及び競合技術の現状と将来展望」
 
日 時:2000年11月17日(金) 10:00-16:45
場 所:機械振興会館B2ホール
参加者:128名

プログラム:
  1. トンネル磁気抵抗効果と材料系のレビュー 宮崎照宣(東北大)
  2. MRAMの現状と将来展望 猪俣浩一郎(東北大)
  3. Technology Status and Potential for High Speed Nonvolatile Magnetoresistive RAM S. Tehrani(Motorola)
  4. FeRAMの現状と将来技術 川久保隆(東芝)
  5. Silicon Movie時代に向けた大容量NANDフラッシュメモリ技術 作井康司(東芝)
  6. 高集積DRAMの現状と課題 木村紳一郎(日立)
 
 将来の固体メモリの有力候補としてMRAMへの注目度が高まる中、競合技術も一同に介した本研究会は、各分野から128名という多数の参加者を集めた。製品開発を進めるMotorolaからTehrani氏を招いた事も、大勢の参加を促した一因と言えよう。各講演の質の高さ、活発な議論もあり、オーガナイザー一同、大成功だったと確信している。
 宮崎氏は、TMRの原理、材料・プロセス、評価手段を解説した。特に、絶縁膜の評価手段として、コンタクトAFMの有用性を力説した。コンタクトAFMで得られる電流分布像は、バリアの幅と高さの分布に対応し、この分布を踏まえて理論解析すると、実験結果を良く説明できる事を示した。具体例として、アニールによるMR比の増加、接合抵抗とMR比のトレードオフ、といった実験結果を理論的に再現し、バリア幅を数Å薄くする事が、低抵抗化の要求が厳しいヘッド応用への道を拓く、という方向を示唆した。MRAM応用に関しては、接合抵抗に対する要求が緩いので、現行性能で実用化可能との見解を示した。
 猪俣氏は、MRAMの発展の経緯、セル構成、動作原理、実用化への課題を判りやすく解説した。実用化への課題としては、素子間バラツキ、耐熱性、微細加工性、周辺回路、大容量化の5つを挙げた後、大容量化の為の方策として、微細化により増大するスイッチング磁界の問題を解決する新スイッチング方式、高出力再生に適した2重トンネル接合を紹介した。又、MRAMの将来像をロードマップ上で示し、現在の進展度を延長すると2006-2007年に1Gbit素子の出現が予測される事、その実現の為にはスイッチング磁場の低減が最大の課題である事、予測通りならDRAM代替とモバイル機器搭載が急速に進む事、等の展望を描いた。最後に、欧米各国で共同研究機関が設立されている状況に鑑み、日本も企業間の壁を超えた研究環境の整備が急務、との提言を行った。
 Tehrani氏は、各種固体メモリを比較しMRAMの位置付けを示した後、セル構成、アーキテクチャ、試作デバイスについて、詳細なデータに基づき論じた。絶縁膜の膜厚と酸化時間をパラメータに取得したデータ等から、接合抵抗とMR比の関係を整理し、MRAMとして実用的な接合抵抗:1-10(kΩ・μm2)、MR比:35-50%程度が得られている事を示した。又、アニールによるMR比の改善効果についてIn-situ.XPSで調べ、磁性元素の還元が原因である事を示した。その他、フリー層の極薄膜化(<1.5nm)による超常磁性化、環流磁区に起因する異常スイッチング現象、実用面では、繰返し耐久性、信頼性など、多岐に亘り詳細な結果が示された。CMOSとインテグレートした512bit試作デバイスは、6インチウェファー内のMR比と接合抵抗のバラツキが10%以下、3Vバイアス時に8nsのアドレスアクセス、18nsのリードサイクル、を示す極めて優れたものであった。来年2月のISSCCでは、8nsアクセス、50nsサイクルの256kbit-MRAM試作チップのデモ発表を行うと予告した上で、チップの写真とデータの一部を紹介し、参加者を喜ばせた。
 川久保氏は、結晶構造に起因するFeRAM特有の動作原理、分類と得失、単結晶化の試み、MRAMとの比較を論じた。ペロブスカイト型結晶の中央に位置するTiの位置変化がメモリ原理、との事である。分類としては、MFM(金属/強誘電体/金属)構造のキャパシタ型、MFS(金属/強誘電体/半導体)構造のFET型とダイオード型があり、現在、実用化されているのは、キャパシタ型であると述べた。高集積化へ向けた課題として、強誘電体の薄膜化、単結晶化、トランジスタとキャパシタの最適配置、蓄積電荷量の確保を挙げた後、単結晶化の試みを紹介した。Bi2SiO5バッファ層を用いたエピと、SrRuO3上へのエピを紹介し、後者では多結晶の倍程度の残留分極率が得られている事を示した。MRAMとの比較では、高集積性では劣るが、書込み性とSNRで優れており、棲分けるだろう、との見解を示した。  作井氏は、半導体不揮発性メモリの分類とフラッシュ(NAND型E2PROM)の位置付け、NAND型とNOR型の比較、製品化された256Mbitフラッシュの諸元、ロードマップを解説した。NAND型はブロックアクセス、NOR型はランダムアクセスに各々適しており、高集積性と高速データ転送性ではNAND型が有利な事を示した。NAND型のブロックアクセス性はデジカメ応用に好適との事である。256Mbitの製品には、ビット線間隔を詰めるSTI(Shallow Trench Isolation)技術、線間容量に起因するリークを防止するアーキテクチャが搭載され、写真などのシリアルデータは35nsでアクセス出来るとの事である。ロードマップ的には、2005年に動画対応の16Gbitを実現すると予測した。
 木村氏は、半導体とDRAMの市場規模、動作原理、セル構造の変遷、プロセス技術、将来展望を判りやすく解説した。今年の半導体市場は21兆円、DRAM単独では3.2兆円、シェアは、韓国の伸びが著しく日本は低下傾向を辿っているとの事である。キャパシタの蓄積電荷量を、ビット線電圧で読取る原理な為、容量を如何に確保するかが高集積化上、最も重要な課題。1Mbit以前の平面キャパシタ構造が、4M以降スタックとトレンチ2種類の立体構造に変化し、両者共256Mの製品に至っている。Gbit級へ向けた技術として、トレンチ側壁へのトランジスタ形成、BaxSr(1-x)TiO3系高誘電率絶縁膜などの材料技術、スタックキャパシタ表面の凹凸化(表面積増加)、位相シフトマスクを用いる超解像露光、自己整合コンタクトなどのプロセス技術を紹介した。0.11μmルールの4Gまでは、従来通りの軽薄短小路線で行くが、同時に積層モジュール化による大容量化のアプローチも重要である、と提言した。
 猪俣氏は、会場で配布したアンケート用紙に答える形でまとめを行った。適時Tehrani氏の意見も入れながら、新スイッチング方式などの質問に答えた後、MRAMとFeRAMの棲み分けを、大容量のメインフレームや画像応用はMRAM、低消費電力性が求められるICカード等はFeRAM、として本研究会をまとめた。
 最後に、固体メモリデバイスの現状と将来について、異分野の研究者にも判りやすく、かつ質の高い解説をして頂いた各講演者に心から感謝の意を表し、研究会報告とする。


(東芝 市原勝太郎、東北大 猪俣浩一郎)