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日本応用磁気学会第101回研究会報告
「高温超伝導研究10年---現状と展望」
 
日 時:1997年7月23日(水) 10:00〜17:20
場 所:商工会館
参加者:79名

講演題目:
  1. 基礎物性の理解
    「Introductory Talk」 近桂一郎 (早大理工)
    「はじめに ---高温超伝導はなぜ難しいか」 寺崎一郎 (早大理工)
    「強磁場で高温超伝導を壊す」 安藤陽一 (電中研)
    「混合状態の異常」 松田祐司 (東大物性研)
  2. 物質探索と材料
    「なぜPrBa2Cu3O7は超伝導にならないか」 永崎洋 (東大工)
    「なぜPrBa2Cu3O7は超伝導になったのか」 岡邦彦 (電総研)
    「強ピンニング材料」 腰塚直己 (超電導工研)
    「高温超伝導体薄膜」 内藤方夫 (NTT基礎研)
  3. 応用研究の現状と展望
    「応用の現状」 北沢宏一(東大工)
    「高温超伝導電力ケーブル」 石井英雄 (東京電力)
    「単一磁束量子(SFQ)素子」 斎藤和夫 (超電導工研)
標記研究会は、超伝導マグネティクス専門研究会との合同で開催された。 1986年の発見以来の精力的な研究によって、高温超伝導体の物性の理解は急速に深まったが、その電子状態を記述する理論体系は未だに確立していない。その理由として、高温超伝導体の物性が通常の半導体や金属とは全く異なっているために、従来の物性物理学の「常識」が通用しなかったことがあげられる。その意味で、この10年間は、高温超伝導体の「常識」を認識することに費やされたとも言えよう。一方、基礎研究に並行して、高温超伝導体の応用研究・製品開発もまた独自の進歩を遂げつつあり、従来の超伝導応用では遭遇しなかった数々の問題が明らかとなってきた。標記研究会ではこうした現状を考慮し、高温超伝導研究における、基礎・材料・応用の現状の概観と将来の課題について総合的な議論が行われた。

午前の部では、基礎物性の立場から高温超伝導研究の現状が議論された。基礎研究は非常に多岐にわたっており、すべてを網羅することはできないが、今回は高温超伝導体の2次元性に注目した発表が行われた。高温超伝導体に見られる異方性が、他の物質とは質的に異なったものであることが報告された。

午後の前半では、主に材料科学の観点から講演が行われた。特に、去年発見された PrBa2Cu3O7 (Pr-123)の超伝導転移は参加者の多くの関心を惹き、活発な議論がなされた。 Pr-123は発見当初から超伝導化しない系として知られており、その非超伝導性を説明する理論も提唱されてきた。そのような状況で発見されたPr-123の超伝導はそれ自体衝撃的であったが、さらに今回、Pr-123が(高圧下ではあるが)123系の中で最高の転移温度106 Kを持つことが報告され、出席者を驚かせた。

午後の後半の部では、高温超伝導の応用についての現状・課題・抱負が述べられた。 民生品としての商品化には至っていないものの、実用化への確実な歩みが伝わってきた。 特に超伝導電力ケーブルについては、(少なくとも試験的な運用としては)そう遠くない将来、実現しそうな印象を受けた。

10年の時を経て、高温超伝導の研究は高度に専門化・細分化されてきている。 このことは、この分野が成熟してきたことを示す反面、基礎的なシンポジウムが少なく 全貌を見渡すことは年々難しくなっている。本研究会は、最近の話題を盛り込みつつも、基礎に徹した講演が行われたという点でユニークであったと思われる。 高温超伝導体を真の「機能性材料」とするためには、異なる才能を持つ多くの人材の参加が不可欠である。本研究会が、基礎・材料・応用の各方面の交流の促進や、新しく高温超伝導研究を目指す人々にとっての一助となれば幸いである。

(早大理工 寺崎一郎)