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日本応用磁気学会第92回研究会
磁性体−半導体ハイプリッド: 新しい構造と機能
 
日 時:1995年10月26日(木)10:00-17:00
場 所:商工会館
参加者:55名

この研究会は,現代のエレクトロニクスを支えてきた半導体 と磁性体の複合化について,「電荷」と「スピン」の両性質を同 時に利用するためのアプローチとその機能性の面から企画さ れ,磁性体−半導体ハイブリッドの現状と今後の発展性につい て,磁性体と半導体の複合化, 半導体スピン工学,希薄磁性半 導体の新展開といった観点から,この分野で活躍されている研究者に講演をお願いした.講演題目と講演者は以下の通りである.

1. 磁性機能と半4体の複合化が目指すもの
大野英男(東北大)
2. 強磁性化合物/半導体構造のへテロェピタキシーとその新機能
田中雅明(東 大)
3. 磁性体-半導体ハイブリッドの磁気相互作用の制御
猪俣浩一郎,斉藤好昭(東 芝)
4. 半導体キャリアが誘起する強磁性とその応用の可能性
宗片比呂夫(東工大)
5. 磁性体−半導体ハイブリッド量子ドットの新機能
山本哲也,吉田 博(東北大)
6. 希薄磁性半導体微粒子・超格子の新しい機能
岡 泰夫(東北大)
7. 4元系希薄磁性半母体CdMnHgTeを用いた980 nm帯光アイソレータ
小野寺晃一,大場裕行,武田 進, 川村卓也, 木村昌行,増本敏昭(トーキン)

1.は,この研究会を概観した講演で,電子デバイスと光デバ イスを担ってきた半尊体に,記憶デバイスを担ってきた磁性体 (スピン)の機能を付加して, 半導体エレクトロニクスの領域を 拡大する可能性について述べられた.また,この講演では, 磁 性体-半母体ハイプリツドの種々の応用の可能性が紹介され, これらがなす将釆像が示された.
2.では,半導体工ピタキシャ ル成長技術の観点から,GaAs半導基坂上へのMnGa,MnAs 強磁性体薄膜成長について講演された.異なる性質をもつ物質 のへテロ・エピタキシャル成長の難しさと,材料をうまく選択 することにより,半導体並のへテロ界面をもつ成長が可能であ ることが示された.
3.では,磁性体-半虫体人工格子薄膜での 磁気交換結合について,Fe/Si,Fe/FeSi,Co/Si系の実験結果 が報告された.)磁性体-半導体人工格子薄膜は,金属人工格子 と異なる磁気交換結合の振る舞いを示し,この交換結合が, 半 導体層のキャリアの制御によって,制御できる可能性が示され た.今後,2.の講演で紹介された半導体超格子並の人工格子薄 膜の作製が,この研究の鍵となることが示唆される.
4.では, sp-d 交換相互作用を通じて,半導体的側面のキャリア密度を制 御することにより,磁性スピンの制御,すなわち磁気特性を制 御できる実例を,希薄磁性半生体lnMnAs系で示され,電界 電流,光によって,半専体の性質と同様に,磁性を制御する応 用について講演された.
5.では,第一原理からの計算により, 半導体中の磁性イオンの電子状態に,sp-d混成による多重荷電 状態や交換相関互作用による負の電子相関が現れることが説明 された.また, 磁性イオンを含む半導体量子ドットを形成して, sp 電子の局在の度合いを重子ドットの寸法で制御することに より,sp-d 混成の変化を通じて,電荷とスピンの状態を制御す ることが示された.このことは,ナノ量子構造における新物質 の実現が期待され, 非常に興味深い講演であった.
6.では,希 薄磁性半導体の超格子・微粒子構造の磁気光物性の実験結果に ついて講演され,希薄磁性半導体のナノ量子構造を制御するこ とにより,sp-d交換相互作用の増大が期待できることが示され た.この結果は,sp電子を制御してsp-d交換相互作用を制御 する 5.の講演と対応しており,これまで材料に依存していた sp-d交換相互作用を人工的に制御できる可能性を示している ものと思われる.
7.では, この研究で唯一応用されている CdMnHgTe系光アイソレータについて,その結晶成長と特性 について講演された.光通信におけるErドープ・ファイバー アンプ励起光源用の光アイソレータの重要性と,その材料とし てCdMnHgTeが最も適していることが示された.また,この 材料の商品化において,均一な結晶成長が課題であることが紹 介された.

この研究会では,7.の講演でのCdMnHgTe以外には商品化 されておらず,磁性体−半導体ハイブリッドの新しい物理現象, 新機能の紹介が主であったが,予想外に企業からの参加者か多 く,討論では半導体サイドと磁性体サイドの研究者間で活発な 意見交換がなされた.そういった意味では, この研究会は, 磁 性体と半導体の専門家の出会いとして格好の場を提供し, 研究 会のテーマである磁性体-半導体ハイブリッドが実際の研究 テーマとしてだけではなく,研究会としても磁性体と半導体の 研究者のハイブリッドをなした研究会となった.オーガナイ ザーのー人として, この研究会がきっかけとなって,この分野 がさらに進展することを期待する.

(山口大:小柳 剛)