206.01

【分野】:磁気物理

【タイトル】:原子間力顕微鏡による局所異常ネルンスト効果検出と高分解能磁気イメージング

【出典】:
Nico Budai, Hironari Isshiki, Ryota Uesugi, Zheng Zhu, Tomoya Higo, Satoru Nakatsuji, and YoshiChika Otani, “High-resolution magnetic imaging by mapping the locally induced anomalous Nernst effect using atomic force microscopy”
Appl. Phys. Lett. 122, 102401 (2023). DOI: https://doi.org/10.1063/5.0136613

【概要】
Hironari Isshikiらのグループは原子間力顕微鏡を用いて強磁性ワイル半金属Co2MnGa表面に熱流を局所的に誘起させ、生じた異常ネルンスト効果を検出することにより磁気構造を高空間分解能で観測することに成功した。

【本文】
ワイル半金属は特徴的な電子状態(バンド構造)を持ち、大きな異常ネルンスト効果を示すことから次世代スピントロニクス材料として近年注目を集めている。ワイル半金属の巨大異常ネルンスト効果の起源を解明するためにはその磁気構造を明らかにする必要があるが、従来の磁気イメージング手法では空間分解能が低く、磁化反転や磁壁移動の詳細について調べることは困難であった。東京大学物性研究所のHironari Isshikiらのグループは、原子間力顕微鏡探針をワイル半金属に接触させ、表面に局所的に誘起された熱流と磁化の直交方向に生じる異常ネルンスト効果に由来する電圧信号を空間マッピングすることにより高い空間分解で磁気像を取得できることを明らかにした。試料には室温で大きな異常ネルンスト効果を示すことで知られるCo2MnGa (CMG)が用いられた。CMG細線およびヒーターを微細加工技術により作製し、ヒーター加熱により数ケルビン温度上昇したCMG細線表面に原子間力顕微鏡探針を接触させた際の細線間の電圧を計測した。探針接触により熱がCMG細線から探針へ移ることから探針直下のナノスケールでの局所領域に垂直方向の熱流が誘起され、熱流と磁化に直交下方向に異常ネルンスト効果による電圧が生じる。この電圧を、印加磁場を変化させながら空間マッピングした。実験は室温・大気環境下で行われた。結果、観測された電圧マッピング像は印加磁場の大きさ・方向によって変化したことから磁性起源であることが確認され、CMG細線のマイクロ磁気構造シミュレーションの結果とよい一致を示したことから磁気構造に対応することがわかった。また、電圧マッピング像から見積もられたCMG細線磁気構造の空間分解能は従来手法よりも約10倍高い80nmであった。広く普及している原子間力顕微鏡を用いて行える簡易的な方法ながら磁気熱電効果を高空間分解能でマッピングすることができることを示した本研究により、これまで明らかになっていない反強磁性ワイル半金属の磁壁構造の観察等、関連分野の発展につながることが期待される。
(名古屋大学 宮町俊生)

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