205.02

【分野】スピントロニクス

【タイトル】コバルトフェライト垂直磁化膜を用いたスピン偏極電子の生成

【出典】Masaaki Tanaka, Motoharu Furuta, Tomoyuki Ichikawa, Masaya Morishita, Yu-Min Hung, Syuta Honda, Teruo Ono, and Ko Mibu, “Generation of spin-polarized electronic currents using perpendicularly magnetized cobalt-ferrite spin-filtering barriers grown on spinel-type-conductive layers”, Appl. Phys. Lett. 122, 042401 (2023).
DOI:10.1063/5.0131390

【概要】名古屋工業大学の田中らは、垂直磁化を持つ強磁性絶縁体のコバルトフェライト薄膜を強磁性層とする垂直磁化型のトンネル磁気接合素子を用いて、トンネル磁気抵抗効果を観測した。観測されたトンネル磁気抵抗効果は、強磁性絶縁体薄膜のバリア高さがスピンに依存することで生じるトンネル型スピンフィルター効果に起因することが説明され、コバルトフェライト薄膜によるスピン注入効率が100 Kで−28%になることが明らかにされた。 本研究は垂直磁化を持つ強磁性絶縁体薄膜によるスピン注入の初めての観測であり、垂直磁化のスピントロニクス・デバイスへの応用が期待される。

【本文】名古屋工業大学 大学院工学研究科の田中雅章准教授,壬生攻教授、大学院生の古田元春さん、市川知幸さん、森下雅也さんらは、京都大学化学研究所の小野輝男教授、大学院生Yu-Min Hung博士(現ウエスタンデジタル合同会社)、関西大学システム理工学部の本多周太准教授らと共同で、垂直磁化を持つ強磁性絶縁体のコバルトフェライト薄膜を強磁性層とする垂直磁化型のトンネル磁気接合素子を用いて、トンネル磁気抵抗効果の観測に成功した。
スピン自由度が偏った(スピン偏極)電子を用いるスピントロニクス・デバイスでは、スピン偏極電子を生成して非磁性体などに注入(スピン注入)する材料として、強磁性金属薄膜が利用されている。強磁性絶縁体薄膜を透過するトンネル電子では、電子のスピン自由度に依存してトンネル障壁の高さが異なるため、特定のスピンを持つ電子が優先的に透過する。この現象はトンネル型スピンフィルター効果と呼ばれ、新しいスピン注入の原理になりうる。これまでに面内磁化の強磁性絶縁体薄膜では、トンネル型スピンフィルター効果によるスピン注入の実証が報告されていたが、垂直磁化の強磁性絶縁体薄膜を用いたスピン注入はこれまで報告されていなかった。
 一方、逆スピネル構造の強磁性絶縁体コバルトフェライト薄膜は面内方向に引張歪みがあると、垂直磁気異方性が誘起されることが知られている。本著者らは、スピントロニクス・デバイスへの応用が可能な、導電体薄膜上に垂直磁化を持つ鉄リッチのコバルトフェライト薄膜を作製した(K. Naruse et. al., J. Magn. Magn. Mater., 475, 721 (2019))。また、コバルトフェライト薄膜の垂直磁気異方性の起源について報告を行ってきた(J. Okabayashi, et. al., Phys. Rev. B, 105, 134416 (2022))。
 今回の研究では、材料や作製条件を変えることでパルスレーザー堆積法を用いて、導電性の鉄リッチのコバルトフェライト(C-CFO)と絶縁性の鉄リッチのコバルトフェライト(I-CFO)の作り分けを行った。そして、MgO(001)基板上に下部強磁性層としてI-CFO/C-CFO/I-CFO多層膜を、交換結合の切断層としてMgO層を、そして上部強磁性層としてCo/{Tb/Co}15/Co多層膜をもつ垂直磁化型の磁気トンネル接合(MTJ)素子を作製し、磁気抵抗効果の測定を行った。 
その結果、100 KでTMR比が-20%の負のTMR効果が観測された。この効果はJulliereの式を用いてI-CFO層のスピン注入効率を計算すると-28%になる。またTMR比のバイアス電圧依存性は、図のように、強磁性金属を用いたMTJ素子のTMR比のバイアス電圧依存性とは異なる振る舞いをすることがわかった。この振る舞いは、Fowler-Nordheimトンネル機構と呼ばれる、バイアス電圧によりI-CFO層のトンネルバリアの有効的なバリア幅が変わることで生じるトンネル電子の透過率の変化で説明できることがわかった。
今回の研究は、垂直磁化を持つ強磁性絶縁体薄膜によるトンネル型スピンフィルター効果の初めての報告であり、垂直磁化のスピントロニクス・デバイスへの応用が期待される。
(沼津高専 大澤 友克)

200 KにおけるTMR比のバイアス電圧依存性。挿入図は、100 KにおけるMTJ素子の磁気抵抗測定の結果。

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