201.01

【分野】
スピントロニクス

【タイトル】
反強磁性体における垂直2値状態の電流制御に成功

【出典】
・東京大学ホームページ(2022年プレスリリース)
URL:https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2022/7994/
・Tomoya Higo, Kouta Kondou, Takuya Nomoto, Masanobu Shiga, Shoya Sakamoto,
Xianzhe Chen, Daisuke Nishio-Hamane, Ryotaro Arita, Yoshichika Otani, Shinji Miwa
and Satoru Nakatsuj,
“Perpendicular full switching of chiral antiferromagnetic order by current”,
Nature 607, 474-479(2022)
DOI:10.1038/s41586-022-04864-1
URL: https://www.nature.com/articles/s41586-022-04864-1

【概要】
 東京大学大学院理学系研究科の肥後友也特任准教授、中辻知教授らは不揮発性メモリの超高速化・超低消費電力化を実現可能にする材料として注目を集める反強磁性体において、垂直2値状態を実現し、これを電気的に制御することに成功した。今後、電子デバイス開発に飛躍的な進展をもたらすことが期待される。

【本文】
 反強磁性体はスピンの応答速度が強磁性体に比べて100~1000倍速く、磁気的な相互作用が小さいため、不揮発性メモリの有力候補であるMRAMに応用することで、超高速化、超低消費電力化、高集積化が期待されている。そのため、反強磁性体における情報の書き込み、読み出し技術が近年盛んに研究されている。
東京大学大学院理学系研究科の肥後友也特任准教授、中辻知教授らは理化学研究所創発物性科学研究センターの近藤浩太上級研究員、東京大学物性研究所大谷義近教授の研究グループ、東京大学先端科学技術研究センター野本拓也助教、有田亮太郎教授の研究グループ、東京大学物性研究所志賀雅亘特任研究員、坂本祥哉助教、三輪真嗣准教授の研究グループ、Xianzhe Chen 特任研究員、浜根大輔技術専門職員と共同で、不揮発性メモリの超高速化・超低消費電力化を実現可能にする材料として注目を集める反強磁性体において、従来の強磁性体から構成されるMRAMで用いられている垂直2値状態を実現し、この垂直2値状態を電気的に制御することに成功した。
 今回の研究では、カイラル反強磁性体Mn3Snのエピタキシャル薄膜と重金属薄膜を含む多層膜を作製することで、Mn3Snのカゴメ面に平行に引っ張り歪みを導入することにより、磁気八極子偏極における6つの方向自由度が膜面垂直方向にのみ自由度を持つ状態(垂直2値状態)に変化することが分かった。また、この多層膜からなるホール電圧信号の測定用素子を作製し、書き込み電流によるホール電圧の変化を室温で測定したところ、14MA/cm2程度の書き込み電流によって、垂直2値状態が反転可能であることを確認した。この研究結果よりカイラル反強磁性体において超低消費電力、かつ、信頼性の高い情報記録技術である垂直磁気記憶が可能であることが明らかになり、今後の電子デバイス開発に飛躍的な進展をもたらすことが期待される。

(大同特殊鋼 梶並佳明)

(a)Mn3Sn多層膜における電流による垂直磁気記憶の概要図 (b)歪みによる拡張磁気八極子偏極の方向自由度の変化要図

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