195.02

【分野】スピントロニクス

【タイトル】
酸化鉄Fe3O4のトンネル磁気抵抗効果で世界最高値を記録

【出典】
・Shoma Yasui, Syuta Honda , Jun Okabayashi, Takashi Yanase, Toshihiro Shimada,
Taro Nagahama, PHYSICAL REVIEW APPLIED 15, 034042 (2021)
・https://news.mynavi.jp/techplus/article/20210401-1862266/

【概要】
ありふれた酸化鉄「Fe3O4」を含むFe3O4/MgO/Fe構造のTMR素子を用いて、-55.8%という大きな「負のトンネル磁気抵抗(TMR)効果」を実現した。正のTMR効果の定義に換算すると、-126%に相当する値であり、酸化鉄を用いてこれだけ巨大なTMR効果を報告した例はこれまでなく、Fe3O4の高いスピン分極率が初めてTMR効果によって示された。今後、酸化鉄などの酸化物磁性体を用いたTMR素子の開発が進むことが期待される。

【本文】
北大大学院 総合化学院の安井彰馬大学院生、同・工学研究院の長浜太郎准教授、関大 システム理工学部の本多周太准教授らの共同研究チームは、ありふれた酸化鉄「Fe3O4」を含むFe3O4(001)/MgO(001)/Fe(001)構造のTMR素子を用いて、-55.8%という大きな「負のトンネル磁気抵抗(TMR)効果」を実現した。
 物質中の電子はアップスピンとダウンスピンの2種類の磁気的性質に分けられ、通常の物質は両スピンが同数ずつ存在する。しかし磁性体中ではどちらかのスピンが多く存在し、スピン分極が生じている。このスピン分極はスピントロニクス材料として重要な物質パラメーターの1つである。
 本研究で用いた酸化鉄Fe3O4は、電子状態計算によって「-100%」という大きな負のスピン分極率が予想されており、スピントロニクス材料として期待されている物質である。酸化物磁性体は一種のセラミックスであるため、その多くは絶縁体であって電気を流さないことが一般的だが、Fe3O4は室温で良好な電気伝導性を有することが知られている。また-100%のスピン分極率を示す材料は「ハーフメタル」と呼ばれ、数百%におよぶTMR効果が期待されている。そのため世界中でFe3O4を用いたTMR効果の研究が進められているが、これまでのところ大きなTMR効果は実現されておらず、その理由の解明と、TMR効果の増大が課題となっていた。
今回の研究では、酸素雰囲気中で鉄を蒸着させて酸化鉄薄膜を作製する「反応性分子線エピタキシー法」を用いて、その酸素圧力を精密に制御することでFe3O4の単結晶薄膜を作製した。さらに、通常の金属系TMR素子において大きな効果を示す酸化マグネシウムをトンネルバリア層として採用したFe3O4(001)/MgO(001)/Fe(001)構造のTMR素子を作製し、磁気抵抗効果の測定とその温度変化が調べた。
その結果、80K(-193℃)において、-55.8%の負のTMR効果が確認された。この値は、正のTMR効果の定義に換算すると、-126%に相当する値であり、酸化鉄を用いてこれだけ巨大なTMR効果を報告した例はこれまでなく、Fe3O4の高いスピン分極率が初めてTMR効果によって示された。図に125K(-148℃)における外部磁場に対するTMR比の結果を示す。また、作成時の酸素圧力がTMR効果に大きな影響を与えることもわかった。一方で密度汎関数法による電子状態の計算から、Fe3O4がフェルミレベルにダウンスピンの状態のみが存在するハーフメタルであり、コヒーレントなトンネリングの可能性が示された。今後、酸化鉄などの酸化物磁性体を用いたTMR素子の開発が進むことが期待される。
本成果は、米国物理学会誌Physical Review Appliedから出版された。(PHYS. REV. APPLIED 15, 034042 (2021)) 
(沼津高専 大澤友克)

図 MgO/NiO/Fe3O4/MgO/Fe/Au のTMR曲線。測定温度125K、バイアス電圧300mV

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