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【分野】 スピントロニクス

【タイトル】マイクロ波アシスト磁気記録用スピントルク発振素子の新規評価手法

【出展】Suto et al. Applied Physics Express 14, 053001 (2021)

【概要】
東芝、物材機構および産総研は共同で、マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)に用いられるスピントルク発振素子(STO)の新しい評価手法を開発した。これは、STOに高周波磁界を印加した際に起こるスピントルク発振のinjection lockingを用いるもので、STOから生じる高周波電気信号を用いた従来の方法よりも正確に発振周波数を特定できる。

【本文】
マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)は、ハードディスクドライブ(HDD)の記録密度向上に有効な書き込み手段として、各HDDメーカーによって製品化を目指した開発が進められている。MAMRでは、スピントルク発振素子(STO)を記録ヘッドのギャップ部に挿入し、STOから生じる数10 GHzのマイクロ波磁界によるアシスト効果を利用する。そのためには、STOの特性を把握し制御することが必要であるが、発振周波数の特定が困難であることが課題である。通常、STOの発振周波数の評価には、磁気抵抗効果によってSTOから生じる高周波電気信号をスペクトラムアナライザによって測定する。しかしながら、近年MAMR用STOとして注目されているall-in-planeタイプのSTOの場合、図1に示すようにSTOを構成する2枚の強磁性層(スピン注入層と発振層)の両方が発振するため、STOから生じる高周波電気信号は複数の周波数成分を含み、MAMRのアシスト効果を左右する発振層の発振周波数を同定できない。このことが、STOとMAMR用記録媒体の開発のボトルネックとなっていた。
今回、東芝、物質・材料研究機構および産業技術総合研究所の共同研究チームは、STOに参照信号としての交流磁界を印加し、STOの磁化発振と参照磁界の周波数同期(injection locking)を利用した評価手法を開発した。図2の模式図を用いてその原理を示す。アンテナに高周波信号を導入することで発生させた参照磁界を発振状態にあるSTOに印加する。STOの発振周波数と参照磁界周波数が十分に近い場合、周波数同期が起こる。周波数同期によりSTOの強磁性体の磁化の発振軌道が変化するため、STOの直流抵抗が変化する。この抵抗変化をロックインアンプで検出することで、STOの発振周波数が同定可能となる。この手法では、従来のスペクトラムアナライザを用いた高周波電気信号測定が必要ないため、STOからの高周波信号を取り出すことが想定されていない、実際のMAMRヘッドの特性評価にも適応可能である。

(物質・材料研究機構 中谷友也)

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