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【分野】スピンエレクトロニクス

【タイトル】スピン軌道トルクによる磁化ダイナミクスの時空間分解測定

【出典】
Nature Nanotechnology, doi:10.1038/nnano.2017.151
Spatially and time-resolved magnetization dynamics driven by spin-orbit torques

【概要】
ETH Zurich, IMEC, Paul Scherrer Instituteのグループは、X線イメージングを用いてスピン軌道トルクによる直径500 nmの垂直磁化Coドットの磁化ダイナミクスの観測に成功した。スピン軌道トルクによるCoドットの磁化反転は、サブナノ秒の時間スケールで生じ、またエッジ部における反転核生成とその後の磁壁伝搬により行われることを明らかにした。

【本文】
重金属チャネル層とその上に形成される強磁性ドットから構成されるヘテロ構造において、チャネル層に電流を流して発生するトルク(スピン軌道トルク:SOTと呼ばれる)を用いた磁化状態の制御が、近年、高信頼・高速スピントロニクスデバイスの実現に向けて盛んに研究されている。著者らは、スピン軌道トルクを用いた磁化反転のタイムスケール、磁化反転過程、並びに二つの方向が異なるSOT (damping-like torque, field-like torque)とジャロシンスキー・守谷相互作用と磁化反転との関係を明らかにすることを目的に、Ptチャネル層上に形成された直径500 nmのCoドットの磁化ダイナミクスの時空間分解測定を行った。
電子線リソグラフィーを用いて、膜厚5 nm、幅750 nmのPtナノワイヤ上に直径500 nm, 膜厚1 nmのCoドットを作製した。同構造はX線イメージングに適したSi3N4メンブレン上に作製している。Ptナノワイヤにパルス電流を印加して発生させたスピン軌道トルクにより磁化が反転する際のダイナミクスをX線イメージングにより時空間分解測定した。
著者らは、初めにチャネル層に流す電流を増加させることで、1 ns以下のタイムスケールで磁化反転が行われていることを示した。次に、磁化反転中の磁化ダイナミクスの時空間分解測定の結果を示している。この実験では、初期磁化状態が上向きと下向きの場合に対して、面内磁界の方向とチャネル電流の方向を変えて合計4つのパターンでの実験結果を示している。4つのパターンで、それぞれ核生成が生じる場所が異なることを明らかにしている。このように核生成が生じる場所が異なる理由を二つの方向が異なるスピン軌道トルクとジャロシンスキー・守谷相互作用を考慮することで説明し、更にマイクロマグネティックシミュレーションにより実験結果を再現できることを明らかにした。
磁化反転ダイナミクスは、電気的手法による磁化反転の理解を深める上で重要であり、今後は更に微細な素子でも同様の実験を行うことで、デバイス応用に向けて更に有益な知見が得られるものと期待される。

(東北大学 佐藤英夫)

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