96.01

分野:
スピントロニクス
タイトル:
Everspin社がスピン注入磁化反転型MRAMのサンプル出荷開始
出典:
“High Density ST-MRAM Technology”
J.M. Slaughter, N.D. Rizzo, J. Janesky, R. Whig, F.B. Mancoff, D. Houssameddine, J.J. Sun, S. Aggarwal, K. Nagel, S. Deshpande, S.M. Alam, T. Andre and P. LoPresti
2012 IEEE International Electron Devices Meeting (IEDM), 講演番号29.3, San Francisco, CA, 12/10-12, 2012.
 
 
概要:
 サンフランシスコで開催された半導体関連のメジャー国際学会であるIEDMにおいて、Everspin社は2012年11月にサンプル出荷を開始したスピン注入磁化反転型磁気ランダムアクセスメモリ(ST-MRAM)の特性を発表した。
 
 
本文:
 磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は磁性体で情報を記憶する半導体メモリである。2000年頃から多くの研究開発が行われ、2006年に米国Freescale社(現Everspin社)にて量産化が開始された。しかしこれまで量産されてきたMRAMは、配線に電流を流すことで発生する磁場を用いて情報を書き換える方式を用いていた。この方式は微細化とともに必要な書き込み電流が増大してしまうことから、大容量化の観点で好ましくない。このため近年の研究開発は、スピン偏極した伝導 電子と局在磁気モーメントの間の角運動量交換を利用したスピン注入磁化反転方式へとシフトしている。
Everspin社の発表によると、スピン注入磁化反転方式のMRAMは信頼性の確保が課題となる。発表では、①書き込みとトンネルバリアのブレイクダウンの間に30σ(σ=標準偏差)のマージンが得られたこと、②材料の磁気特性(主に飽和磁化)の調整により不揮発なデータ保持に必要な熱安定性が得られたこと、③材料の改善によりエラーなく読み書きを実現できたことなど、作製したMRAMが高い信頼性を有していることが報告された。なお、今回作製したMRAMの記憶素子には面内磁化容易軸を有するCoFeBを用いているが、今後は垂直磁化方式、さらには電界効果やスピンホール効果を利用する方式も有望であることを述べている。
 ここ数年のIEDMにおけるスピントロニクス関連の発表は毎年数件程度であったが、今回は10件以上の発表がなされた。さらに特筆すべきことは、グラフェン中のスピン輸送、電界誘起の磁化反転、スピンカロリトロニクスなど、従来は磁性の学会での発表に限られていた基礎研究も採択されていることである。これは半導体業界においてスピントロニクスが極めて現実的な解であると認識されていることを表していると考えられる。

(東北大 深見俊輔)