125.01

分野:
スピントロニクス
タイトル:

垂直磁化膜の磁化反転メカニズムの素子サイズ依存性

出典:

“Thermal Stability of Magnetic States in Circular Thin-Film Nanomagnets with Large Perpendicular Magnetic Anisotropy”, Phys. Rev. Applied 4, 024010 (2015).

概要:
マイクロマグネティック・シミュレーションを用いて垂直磁化膜の磁化反転メカニズムを調べた。素子サイズが小さい時はマクロスピン模型、大きい時は磁壁移動が反転の主要なメカニズムであることが示された。
本文:
磁気トンネル接合(MTJ)を用いた磁気ランダムアクセスメモリMRAMは不揮発という利点を持つ次世代の超低消費電力メモリとして注目を集めてきた。しかしMRAMがメモリとして使えるためにはMTJが高い熱耐性を有していなければならない。熱耐性は熱活性領域における磁場もしくはスピントルク磁化反転の反転確率を測定し、その結果をアレニウス・モデルの確率式と比較することで評価されてきた。しかし実験と比較しやすい理論式を導くにはマクロスピン模型を仮定せざるを得ない一方、実際のMTJではマクロスピン仮定が正しいのかという疑問は常につきまとっていた。
ニューヨーク大学のO’Flynnらはマイクロマグネティック・シミュレーションに基づいて垂直磁化膜の磁場反転を調べた。ただし熱揺らぎのトルクは含まれておらず、熱耐性はあくまで反転の際のエネルギー変化の最大値と最小値の差とみなしている。彼らはこの系の反転は磁化が一斉に動くマクロスピン模型のようにふるまう場合と、磁区が形成され磁壁移動によって磁化が反転する場合の2つに分けられることが示している。2つの反転機構の境界を決めるのは異方性エネルギーと交換相互用の比であり、これは磁壁の長さによく似ている。この長さスケールに対しMTJの直径が小さければマクロスピン模型が、長ければ磁壁移動が反転の主要なメカニズムになる。ただし異方性エネルギーが反磁場を通じて素子の直径に依存するから、特徴的な長さスケールが素子の直径自身に依存し少し複雑だ。いずれにせよ、磁化反転のメカニズムが素子サイズによって変化することが示され、そのスケールも明らかにされたことは重要である。ただし本研究では磁場反転の場合しか議論されていない。スピントルクと熱揺らぎがある時の反転メカニズムの素子サイズ依存性はいまだ不明であり、そういった系への発展も今後必要とされるであろう。

(産総研 谷口知大)