117.01

【分野】
スピンエレクトロニクス
【タイトル】
熱流によって誘起されるスピントルクの磁化相対角度依存性の理論的研究
【出典】
“Thermally driven magnetic precession in spin valves”, Phys. Rev. B 90, 144430 (2014).
【概要】
熱勾配によって生じるスピントルクの磁化相対角度依存性を拡散方程式から計算した。電流を印加した場合にはスピントルクが”wavy”な振る舞いを示さない系でも、熱勾配によるスピントルクでは”wavy”な振る舞いを示す可能性が示された。
【本文】
フランス・CEA-INEA/UFJのD. LucとX. Waintalはスピンバルブに熱勾配を与えることで生じるスピントルクを計算した。ゼロ磁場で動作する高周波発振素子の実現に向け、スピントルクによる磁化の歳差運動誘起の研究が重要性を高めている。その方法の一つとして研究が行われてきたのが”wavy angular dependence of spin torque”だ(J. Barnes et al., Phys. Rev. B 72, 024426 (2005))。スピントルクの初期の研究ではスピンバルブの自由層と固定層は同じ厚み・材料パラメーターを持つと仮定されていた。この対称構造では磁化の相対角度を0度(磁化の平行配置)から180度(反平行配置)に変化させてもスピントルクの向き(符号)は変わらない。しかし各層での厚みとスピン拡散長の比が異なると2層間のスピン蓄積が変化し、スピントルクはある相対角度φを境に符号が変わるようになる。すると、磁化の相対角度が0度からφ度の間はスピントルクが反平行配置を、φ度から180度の間は平行配置を好むようになる。その結果、磁化が平行もしくは反平行配置に近づく度にスピントルクが磁化を逆向きにしようと働くので、磁化は継続的に歳差運動を行うようになる。横軸を相対角度にとってスピントルクをプロットすると角度φを節に一波長の波のようになるため、このような角度依存性を”wavy”と呼ぶ。Luc&Waintalは本論文で、熱流起源のスピントルクも”wavy”な振る舞いを示すことを明らかにした。ここで面白いのは、電流によるスピントルクが”wavy”な振る舞いを示さなくても、熱流によるスピントルクが”wavy”な振る舞いを示す点だ。これは前者が伝導率、後者はゼーベック係数という異なるパラメーターで特徴づけられることが原因である。著者らはゼーベック係数のスピン偏極率と角度φの関係式も導出している。ゼーベック係数のスピン偏極率が大きい材料と、その適切な組み合わせが見つかれば、実験で発振が確認できるようになるかもしれない。そうなればスピン・カロリトロニクスの研究はますます盛んになるであろう。

(産総研 谷口知大)