68.01

分野:
スピンエレクトロニクス
タイトル:
スピン波との相互変換による磁性絶縁体中の電気信号伝送
出典:
“Transmission of electrical signals by spin-wave interconversion in a magnetic insulator”
Y. Kajiwara, K. Harii, S. Takahashi, J. Ohe, K. Uchida, M. Mizuguchi, H. Umezawa, H. Kawai, K. Ando, K. Takanashi, S. Maekawa, and E. Saitoh
Nature 464, 262 (2010)
概要:
東北大学金属材料研究所の梶原らは、スピンホール効果によって発生したPt金属中のスピン波を磁性絶縁体のY3Fe5O12へ注入し、もう1つのPt金属にて再び電気信号に変換することで、磁性絶縁体中に電気信号を伝送できることを示した。
本文:
 
絶縁体中に電気信号を伝送することは新しい動作原理に基づいた電子デバイス作製の可能性を有している。東北大学金属材料研究所の梶原らは、Y3Fe5O12とPtの積層構造を用いて、電流により発生したスピン流を絶縁性Y3Fe5O12中に伝送させそれを電気信号に変換することに成功した。
 伝導電子のスピン流の減衰長は、通常、数百ナノメートル程度と非常に小さい。一方、スピンの集団運動であるスピン波のスピン流(Spin-wave spin current)はそれよりもずっと大きいことが示されている。特に絶縁体中ではこの減衰が非常に小さく、大きなバンドギャップを有するフェリ磁性絶縁体Y3Fe5O12では数センチメートルという減衰長を有する。著者らはまずY3Fe5O12とPtの積層膜系において、スピンポンプによってY3Fe5O12で発生したスピン流がPt層で起電力を生む逆スピンホール効果を示すことに成功した。これは局在したY3Fe5O12の磁気モーメントとPtの伝導電子の交換相互作用または界面での伝導電子のミキシングにより生じていることを示している。次にこの逆現象である電流によるスピントルク発生を示すため、磁場中でPt層に電流を印加した。その結果、スピントルクとスピン緩和トルクが競合して起こる条件においてのみマイクロ波発生が起こることがわかった。これは磁化の歳差運動が誘起されたことを表しており、スピン波が絶縁体中に伝送されていることを証明している。著者らは最後にこれら2つの現象をあわせることで、電気信号をスピン波として絶縁体中に伝送し、さらに電気信号に再変換することを成功した。Y3Fe5O12上に1mm離れた位置に2つのPt層を堆積させ、磁場中で一方のPt層内に電流を印加したところ、上述の現象によりもう一方のPt層で起電力が生じていることが分かった。この起電力は磁場の印加方向によってオン・オフをスイッチすることができる。以上の結果は、エネルギー消費を抑えた絶縁体ベースのスピントロニクスデバイス・電子デバイスの開発への一歩となると期待される。

(東大物性研 谷内敏之)