60.04

分野:
スピンエレクトロニクス
タイトル:
MgO障壁を用いた2重トンネル接合で室温MR比1056%を実現
出典:
Applied Physics Express 2 (2009) 083002
doi:10.1143/APEX.2.083002
L. Jiang, H. Naganuma, M. Oogane, and Y. Ando
“Large Tunnel Magnetoresistance of 1056% at Room Temperature in MgO Based Double Barrier Magnetic Tunnel Junctions”
概要:
 東北大学・安藤康夫教授らはCoFeBとMgOを用いた2重トンネル接合を作成し、室温で1056%の磁気抵抗比を得ることに成功した。
本文:
 
産総研やIBMのグループによりMgOバリアを用いた強磁性トンネル接合(MTJ)で200%を超えるトンネル磁気抵抗(TMR)比が実現されて以来、MgOバリアを用いたMTJの研究が盛んに行われている。現在までに報告されたTMR比のトップデータは、東北大・電気通信研究所のグループによってFe(Co)/MgO/Fe(Co)-MTJで観測されたもので、室温で604%(5Kで1144%)である。しかしながら、このような高いTMR比を得るためには450℃という高温でアニールを行うことが必要であり、IrMnやPtMnを用いて強磁性電極の磁化を固定することができないという欠点があった。

 東北大・安藤教授らのグループはMgOバリアを用いた2重トンネル接合(CoFeB/MgO/CoFeB/MgO/CoFeB)を作成し、中間CoFeB層の膜厚とアニール温度によるTMR比の変化を詳細に調べ、中間層の膜厚1.2nm、アニール温度350℃において室温で1056%のTMR比が得られることを見出した。350℃というアニール温度はPtMnを用いた磁化の固定が可能な温度であり、実際にこの研究ではPtMnを用いて磁化を固定したシンセティック反強磁性層(PtMn/CoFe/Ru/CoFeB)を両端の電極として用いている。

 MgO2重トンネル接合系でこのような高いTMR比が得られる物理的な機構についてはまだ明らかになっておらず、著者らは共鳴トンネル、クーロンブロッケードなど幾つかのナノサイズ効果をその候補として挙げている。さらなる研究によって高TMR比発現機構が解明され、今後のスピントロニクスの発展に大きく貢献することを期待する。

(産総研・ナノテク 今村 裕志)

スピントロニクス

前の記事

68.05
スピントロニクス

次の記事

60.01