40.02

分野:
スピンエレクトロニクス
タイトル:
強磁性半導体(Ga,Mn)As中の磁壁運動に対する微弱電流と磁界の作用の違い
出典:
Science 317, 1726 (2007)
 http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/317/5845/1726
概要:
 強磁性半導体(Ga,Mn)Asを用いた磁壁のクリープ運動速度が測定され、電流駆動と磁界駆動のそれぞれで、異なる指数で特徴付けられるスケーリング則に従うことがわかった。これは、磁壁クリープへの電流と磁界の作用が、互いに等価なものとして扱えないことを意味する。
本文:
 JSTと東北大学の共同研究グループは、強磁性半導体(Ga,Mn)Asを用いて、磁壁が非常にゆっくり移動する現象であるクリープ運動の様子を詳細に調べ、磁性体に電流を流した時と磁界を加えた時とでは、磁壁のクリープ運動が根本的に異なることを発見した。従来から磁界による磁壁駆動を利用したメモリーなどの種々のデバイスの考案が検討されてきたが、近年電流によっても磁壁を動かせることが実験的に示され、その駆動機構の解明に注目が集まっている。今回の研究は、これらの磁性科学の新たな展開に寄与すると共に、磁壁を使った不揮発性磁気記憶素子の安定性を定量的に議論する基礎を与える。

 同研究グループはこれまでに、強磁性半導体(Ga,Mn)Asに電流を流すことにより(Ga,Mn)Asでは、(1)NiFeなど強磁性金属に比べ2桁程度小さな電流密度で磁壁を移動できること、(2)一定の電流密度以上では磁壁が移動する速度は電流に比例して増加すること、(3)一定の電流以下の微弱な電流を流した時、クリープ運動が生じること―を見出していた。ここで、電流による磁壁のクリープ運動は(Ga,Mn)Asにおいて初めて観測された現象である。一般に、物質中に存在する磁壁のような界面のクリープ運動速度は、外部作用(磁界、電流)に対し、アレニウスの式で与えられるスケーリング則に従う。今回、(Ga,Mn)Asを実験試料に、微弱な電流と磁界のそれぞれによる磁壁のクリープ運動を詳細に調べたところ、電流と磁界では異なるスケーリング指数を持つことが明らかになった。これは、電流と磁界による磁壁のクリープ運動が異なる普遍性のクラスに属すことを反映しており、それぞれの作用が互いに等価なものとして物理的に記述できないことを意味する。また、電流に対するスケーリング指数はこれまで知られていなかったが、今回の理論的解析により実験値に近い理論値が導出された。

 以上の成果は、JST戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「大野半導体スピントロニクスプロジェクト」(研究総括:大野英男 東北大学電気通信研究所 教授) と同研究所大野研究室が共同で進めている研究の一環として、東北大学金属材料研究所前川禎通教授の研究チームと共同で得られたもので、2007年9月21日発行のScienceに掲載された。 

(東北大学 金属材料研究所 家田淳一)