28.04

分野:
磁気物理、スピントロニクス
出典:
Nature 442, 176 (2006) ; cond-mat/0609304
タイトル:
金属ナノ構造素子におけるスピンホール効果の観測
概要:
 ハーバード大のティンカムらのグループと東大・理研の大谷らのグループは、強磁性金属と非磁性金属からなるナノ構造素子において非局所スピン注入の手法を用いることにより、スピンホール効果の観測に成功した。
本文:
 スピンホール効果は、非磁性の金属や半導体に電流を流したときに、スピン軌道相互作用により上向き電子と下向き電子が左右逆方向に曲げられて、横方向にスピン流が発生する(試料端にスピンが蓄積する)現象である。このような電流が誘起するスピンホール効果は、強磁性体を使わない新しいスピン流の発生方法として注目を集めている。この効果の逆過程として、強磁性体から非磁性体へのスピン注入により非磁性体中にスピン流を発生させると、横方向に電流が発生する(試料端に電荷が蓄積する)逆のスピンホール効果も予想される(スピン流誘起スピンホール効果)。ハーバード大チームは、CoFeとAlのホール・クロスからなるスピン注入素子を用いて、Al電極中にスピン流を発生させ、それによって横方向に生じるホール電圧を測定し、スピン流誘起のスピンホール効果の観測に成功した(Nature 442, 176 (2006))。一方、東大・理研チームは、Ptとパーマロイ(Py)の電極を、Cu細線を介して配置したスピン注入素子を用いて、スピンホール効果と逆スピンホール効果の両方を観測することに成功した(cond-mat/0609304)。後者では、Pyから注入したスピン流が、Cuを経由してPt中に吸収され、Pt電極の両端にホール電圧が生じる。前者では、Pt電極に電流を流すことによりスピン流が発生し、Cu中にスピン蓄積が生じる。特筆すべきは、室温でもスピンホール効果が観測されたことであり、Ptにおけるスピン軌道相互作用が強いことに起因している。今回のスピンホール効果の観測は、スピンの生成、輸送、検出、および操作が高効率で可能であることを示しており、今後、スピンエレクトロニクスへの応用につながるものと期待される。また、スピンホール効果の機構解明にも重要な示唆を与えると考えられる。なお、半導体におけるスピンホール効果の研究についてはMSJ技術情報9.03の項を参照されたい。 

(東北大金研 高橋三郎)