60.03

分野:
ナノ構造
タイトル:
第29回ナノマグネティクス専門研究会
概要:
 2009/5/29中央大学駿河台記念館にて開催、参加者は15名であった。今回の専門研究会では最新の磁気デバイスから生成に数十億年かかる鉄隕石までと,新奇なテーマについて討議することができた.参加者はやや少なかったが,4件の講演共に最新のデータに基づく興味深い内容であり,活発な討論を行うことができた
本文:
 

  1. 「垂直方式スピン注入MRAMの現状」岸達也(東芝)
    現在,スピン注入を用いたMRAMの開発が活発に進められているが,大容量化に最も適していると考えられる垂直方式のスピン注入MRAMについて,その原理の説明と面内方式に対する本質的優位性が説明された.さらに,これまでに行われた研究のレビューとともに,講演者のグループによる研究内容が紹介された.講演者らの結果は,垂直磁化膜磁気トンネル接合において熱安定性が高くかつ低反転電流を両立できることを示したものであり,世界トップレベルのデータであった.
  2. 「磁性論理演算素子における演算の検証」野村光(阪大)
    磁性論理演算素子(MLG)による演算の検証実験に関して報告された.MLGとは,素子を構成する4つの楕円形磁性ドット間に働く磁気的相互作用を利用して演算を行う新しい演算素子であり,”0″,”1″のデジタル情報を磁性ドットの磁化の向きで表している.本研究では,これまで問題となっていたMLGに対する情報入力手法として,磁気力顕微鏡探針の漏えい磁場を利用した新たな手法を開発した.また,演算のトリガとして外部磁場を印加する手法を考案した.これらの手法を利用することで,単一の素子でNOR演算が可能であることを実験的に検証した.さらに,磁性ドット間の配置を変化させることでXOR演算,OR演算等の他の演算が可能であることも報告された.
  3. 「光電子顕微鏡(PEEM)を用いた鉄隕石の界面における磁区構造解析」小嗣真人(広島大,JASRI/SPring-8)
    隕石はこれまで太陽系の起源を知るための情報源として,地球惑星科学の分野で取り扱われてきた.隕鉄はウィドマンステッテン構造と呼ばれる特殊な金属組織を有し,人工のFeNiとは大きく異なる磁性(保磁力・磁気異方性等)をもつ.そのため,物質科学の分野においても興味深い研究対象といえる.本研究では光電子顕微鏡(PEEM)を用いて,物質科学的な立場から隕鉄の磁気特性を理解することが試みられた.磁区構造観察の結果,界面近傍で特徴的な磁区構造が観測された.この磁区構造は,マイクロマグネティックスシミュレーションの結果,界面に偏析したL10-FeNi相に起因する事が示唆された.
  4. 「[CoB/Pt]n多層膜の適用による酸化物グラニュラー磁気記録膜の高保磁力化」根本広明(日立)
    ハードディスクドライブ(HDD)の面記録密度の向上のために,大きな異方性磁界Hkを有する高品質な磁気記録媒体の開発が必要となっている.本報告では大きなHkを有する磁性材料として[Co/Pt]n多層膜を取り上げ,これに酸素およびホウ素を適量添加することによって磁気記録膜に適用可能な特性が得られることが示された.得られた磁気記録膜の保磁力Hcは15 kOe以上であり,通常の磁気ヘッドによって記録を行うことは不可能であるが,ソフトな磁性膜との多層化やエネルギーアシスト磁気記録方式との組み合わせにより高い面記録密度を実現できる可能性があることが分かった.

 

(阪大 中谷亮一,日立金属 三俣千春)