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分野:
磁気応用
タイトル:
第6回強磁場応用専門研究会
概要:
 2009/8/29,30群馬大学 草津セミナーハウスにて開催、参加者は21名であった。近年、超伝導技術の進展により10 Tを超える強磁場が容易に得られるようになったことで、従来とは異なる様々な分野に磁場利用が普及し、これによって、種々の新しい磁気と磁場の応用が生まれてきている。本会では、強磁場応用専門研究会をチャンネルとして、このような分野の研究者の集まる日本磁気科学会と昨年度より連携をスタートさせている。今年度は、第6回強磁場応用専門研究会を、日本磁気科学会物理化学分科会が開催する第5回分科会と共催することになった。本研究会は、合宿形式で「水を中心とした磁気科学」をテーマに、7人の講師に水やイオン液体の物理化学性質や、それらに対する磁場影響等について御講演を頂き、大変活発な議論が行われた。
本文:
 

    8月29日(土)

  1. 「界面柔構造の磁場変化」 中林誠一郎 (埼玉大)
    以前から報告されていた水の屈折率の磁場依存性測定、シングルバブルソノルミネッセンス現象に対する磁場影響の観測に加え、水と金(111)面の固液界面に存在する窒素ナノ気泡の生成エネルギー計測、界面に接触する水の屈折率計測結果などを紹介し、界面近傍の水の性質について議論した。その結果、水が固体表面に接触する場合、その界面では固体表面直上に自由度をほぼ失った捕獲単分子層が存在し、そこを足がかりに水素結合を介して100 nm 近くまで界面の存在をゆるやかに感じる水薄膜層があるのではないか、という結論に至るとのことであった。
  2. 「磁場下の水の表面張力」 飯野正昭 (千葉工大)
    水の表面張力を計測し、磁場影響を評価した結果が報告された。表面張力計測法としてよく用いられる毛細管上昇法では、熱平衡にならない、接触角が変わると正確な測定ができない、などの問題が考えられるのでこれを避け、定在波を利用する表面張力波法によった。その結果、印加磁場とともに表面張力が増加する傾向が観測された。軽水の場合、磁場の2乗に依存した変化がみられ、10 Tで約2%の有意な増加が、また、重水の場合は、さらに大きな変化が見られた。現時点でメカニズムは明らかではなく、今後、検討を進めるという。
  3. 「超臨界状態に至る水の振動分光 ―ラマン散乱と赤外分光―」 冨永靖徳 (お茶大)
    水と磁場との相互作用を考える前の段階として、バルクの水の動的構造と水素結合との関係を振動分光の観点から明らかにする目的で、超臨界状態に至るまでの水のラマン分光スペクトルと赤外分光スペクトルの比較を行なった結果が紹介された。伸縮振動領域の観測結果からは水素結合が切れてゆく過程がこれらの振動分光スペクトルから観測できたと考えられる結果が得られており、今後は、磁場中での臨界点測定の必要があるという。
  4. 「疎水性ナノ空間における水の分離機能」 渋川雅美 (埼玉大)
    アルキル基をナノメートルオーダーの細孔をもつシリカゲルに表面化学修飾した疎水性多孔質粒子を液体クロマトグラフィーの充填剤とし、アセトニトリル/水および純水により溶媒和液相の分離機能を評価した結果が紹介された。従来は、疎水性充填剤では固定相として機能する水がないと結論されていたが、最近の評価により、疎水性細孔内に取り込まれた水の一部が無機イオンに対して固定相として機能し、物質分離に寄与する水が確かに存在することが確認できたという。
  5. 8月30日(日)

  6. 「液液界面反応の磁気科学的研究」 渡會仁 (阪大)
    磁気力を利用した微粒子の磁気泳動分析法を発展させ、液滴の磁気泳動速度の解析から液液界面反応を検出する方法が紹介された。単一エマルション液滴の移動に要する力は1 pN以下であり、極めて小さな力で移動させることができる。この移動速度の解析から、液滴と周りの媒体の磁化率の差を知ることができ、液滴の磁化率が求められる。さらに、液滴径に対する依存から、界面の磁化率による界面反応の検出が可能になることがDyイオンやカルボン酸を用いた実験を例に紹介された。
  7. 「イオン液体中での光化学とスピン化学をプローブとしたイオン液体の構造研究」 若狭雅信 (埼玉大)、浜崎亜富(信州大)
    化学反応への磁場効果をプローブとしてイオン液体のドメイン構造の実態を評価した研究が紹介された。化学反応の磁場効果はラジカル対のスピン多重度の変換が磁場により影響されるもので、磁場効果が起こるために、スピン相関が可能なラジカル間距離(1 nm以下)にスピン変換が起こるのに必要な時間(10-6~10-8秒)存在する必要がある。このため、この系はナノサイズの反応環境プローブとして用いることができる。ベンゾフェノンによるチオフェノールからの水素引き抜き反応を数種のイオン液体中で実施し、その結果、イオン液体中のドメインサイズやドメイン内粘度、ラジカルがドメインから出る確率などを決定できたという。
  8. 「水を磁気処理すると何が変るのか?」 尾関寿美男 (信州大)
    水の磁気処理効果については諸説あるが、条件があいまい、不純物が異なる、など種々の問題を抱える。炭酸カルシウム結晶成長や腐食現象、水の接触角を対象として、できるだけ条件をはっきりさせた上で、磁場中プロセス、あるいは磁場中を一定の条件で通過させる磁気処理プロセスを経た水を使うプロセスを実施することで評価した結果が報告され、電気化学的な観点など、多角的に行なった考察が紹介された。

(物材機構 廣田憲之)

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