23.02

分野:
磁気物理
出典:
Science Express (March 30, 2006) ; IBM research news (http://domino.research.ibm.com/comm/pr.nsf/pages/
news.20060330_nanotech.html
)
タイトル:
STMを用いた原子レベルでの磁性制御手法の開発
概要:
 IBM社Almaden研究所のグループは,STMを用いた原子レベルでの磁性制御手法の開発を行ったと発表した.極薄絶縁層の上に1から10原子からなるMn原子鎖を形成し,それらの非弾性トンネル分光を観測した結果,Mn原子は互いに反強磁性結合しており,その結果,Mn原子数の偶数,奇数に応じてS = 0, 5/2の状態が交互に出現することを見出した.この結果は基礎物性の興味だけでなく,極限の磁気記録といえる原子レベルでの磁化状態制御に向けた基本技術として注目される.
本文:
 IBM社Almaden研究所のグループは,STMを用いた原子レベルでの磁性制御手法の開発を行ったと発表した.今回の発表では,同社がこれまでに開発したSTMを用いた次の2つの技術が基礎となっている.つまり,単原子移動技術[Eigler 他 : Nature 344, 524 (1990)]を用いた対象とする磁性原子の正確な位置制御,ならびに非弾性トンネル分光技術[Heinrich 他 : Science 306, 466 (2004)]による原子レベルの磁性評価である.この測定では試料温度を0.6 Kとし,7 Tまでの磁場印加を行っている.極薄絶縁層(CuN)の上に,1から10原子までのMn原子鎖を形成し,それらの微分コンダクタンス測定を行ったところ,非常に興味深い結果として,Mn原子数が偶数と奇数とで極めて特徴的なコンダクタンススペクトルが現れることを見出した.それらは解析の結果,S = 5/2を基底状態とするスピン‐フリップ励起(奇数個)とS = 0を基底状態とする(S = 0 → 1)励起(偶数個)とに区別することができる.これは偶数個の原子鎖ではネットのモーメントがゼロであるが,奇数個ではMn原子1個分のモーメントが残っていることに対応しており,Mn原子間の反強磁性結合の結果であるとしている.更に,(S = 0 → 1)励起エネルギーの大きさから交換相互作用Jの大きさを見積もると約6 meVであり,異なるMn原子鎖に対しても5%の範囲内で一致した. 一方,Mnダイマーにおいて強磁性結合の報告[Lee 他: Phys. Rev. Lett. 92, 186802 (2004)]があり,下地の結合種やMn原子間距離などに対する著しい依存性が示唆される. これらの結果は基礎物性の興味だけでなく,極限の磁気記録といえる原子レベルでの磁化状態制御に向けた基本技術として大変注目されるものであり,今後の更なる検討が待たれる. 

(東北大 岡本 聡)