16.03

分野:
パワーマグネティックス
タイトル:
磁気アクチュエータの内視鏡手術への適用始まる
概要:
 国立がんセンター垣添総長を中心とするグループは、内視鏡による胃がんの切除手術の補助として、磁気アクチュエータを利用する方法を提案している。磁気アンカーと呼ばれる磁性体を胃内壁の患部に取りつけ、体外に設置したコイルが発生する磁場勾配により引っ張ることで、内視鏡を通じて挿入されるメスを用いて切除する際の補助を行う。現在同所において臨床試験が開始されている。
本文:
 胃がんの治療方法として近年術例の増えている方法にEMR(Endoscopic mucosal resection: 内視鏡的粘膜切除)がある。これは、胃内壁表層粘膜部にできたがんを切開手術することなく内視鏡を利用して切除するもので、内視鏡を通して挿入した電気メスで病変の存在する粘膜部分のみをすくうように切除するものである。しかしながら、切除の際の切除部の観察は内視鏡を用いて行うために視野が限られるとともに、切除部位が大きい場合には切除部が視野を遮ってしまい、例えば出血等の際に出血部が確認できないために対応が遅れるなどの問題があった。それに対して国立がんセンター、東北大学電気通信研究所、玉川製作所、ペンタックスによるグループは、磁気アンカーと呼ばれる磁性体を使って体外から与えた磁場勾配で切除部を持ち上げ、容易に切除するためのシステムを提案した。磁気アンカーを内視鏡を用いて胃内部に挿入し切除対象部位にクリップで留め、体外から勾配磁界を与えるとそれにより磁性体が力を受け、磁界の方向を制御することにより切除部分を持ち上げる動作が可能となる。そのため、切除部分を内視鏡から容易に観察できるようになり、手術をより安全・正確に行うことができる。既にブタを使った動物実験によりその効果は確認され、その後国立がんセンターにおける倫理審査委員会の承認を得て臨床試験が開始され、現在症例の集積中である。これは磁気の持つワイヤレスでのアクチュエーションを利用したものであり、今後他の医療機器への応用も期待される。

(東北大学 石山和志)

出展:
1)T. Kobayashi, T. Gotohda, K. Tamakawa, H. Ueda, T. Kakizoe, “Magnetic Anchor for More Effective Endoscope Mucosal Resection,” Jpn J. Clin. Oncol., 34, pp.118-128, (2004).
2)厚生労働省指定型研究ナノメディシン・プロジェクト実績報告書(微細鉗子・カテーテルとその操作技術の開発)
http://nano.jaame.or.jp/medicine/report/shitei/2004/16kakizoe/
16kakizoe001.pdf