03.02

電力系の雑音対策強化の必要性と可能性-磁性材料の新たな応用

電波雑音に対する国内の規制がSISPR(国際無線障害特別委員会)11第3版、SISPR22第3版に対応して改定される見込みである(”EMC国際規格と国内規格化の動向”, 徳田 正満, 電子情報通信学会誌 85, 740 (2002))。電車に対する規制が新たに加えられ、影響が大きいと考えられる。
  電車だけでなく、一般的なモータの回転数制御も直流ブラッシモータから、安価で信頼性が高い誘導モータとVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)電源の組み合わせに移行している。主電力制御素子として用いられるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の高耐圧化、大電流容量化と価格の面で大きく進歩したためである。しかし、IGBTはスイッチング速度が GTO(Gate Turn Off)サイリスタより10倍程度高速のためVVVFの電源雑音が増大している。この電源雑音は雑音電波の発生だけでなく、各種の制御回路やディジタル機器の誤動作を惹き起こしている。
  電源雑音除去用フィルタは従来の集中定数型の場合、商用電源用の低電力仕様の物でも周波数帯域上限は数MHz程度である。例えば、新幹線で必要な2kV、300Aの電源に対応させるとき、素子の大型化により、キャパシタの残留インダクタンス、インダクタの寄生キャパシタンスが増加し、IGBT雑音対策に要求される数百k~数MHzの遮断特性を満たすためには新たな発想が必要である。
  一つの可能性は5m~20mに達する電力配線自身に雑音除去能力を持たせる方法である。現在、基礎検討段階であるがその概略を紹介する。
  配線の周囲にシールド導体を設けて同軸構造とし、分布したLCを持たせる。配線の周囲に磁性材料を設け、Lや線間の相互誘導Mを高めることも可能であろう。この方法は配線ダクトに収められるので既存の配線と置き換えが容易である点も魅力的である。電子回路解析プログラムを用いて簡単なモデルで解析した。雑音の波長が配線長より十分長い(周波数が低い)場合は配線のLやCを集中定数で取り扱えると推定できる結果が得られた。この場合、磁性体を用いない場合でも500kHzに対して-10dB以下の減衰量が達成できると予測される。周波数成分が高い雑音に対して、配線をLC分布定数の伝送線路として解析した。また、同軸ケーブル5D2Vを用いて実験的にも確認した。伝送線路そのものは減衰が少ないが、短い区間に分割し、それぞれの間にインピーダンス不整合を導入すると大きな減衰特性が得られる。伝送線路を等間隔で分割した場合は1/2波長の定在波が生じ、特定の周波数とその高調波で減衰量0のピークが現れるくし型フィルタ特性を示した。不等間隔で分割すれば定在波振幅が低下し、ピーク点の減衰量を改善できた。解析上は10M~1GHz帯域で、実測では~200MHzまでの帯域で-20dB以下の減衰量を確保できることを確認した。
  現実の大容量配線に適用する場合は中心導体とシールド導体間に磁性材料を追加し、線径の増加の回避、伝播速度の低減、特性インピーダンスの増加を図る必要があると考えられる。エレベータや空調装置などIGBT応用電源が増加しているビル内配線に対しても同一発想の雑音対策が可能であり、磁性分野の技術者も電力系統ノイズ対策に着目していただきたいと考える。

(川上 寛児)