119.01

分野:
磁気記録
タイトル:
トンネル磁気抵抗素子を用いたマイクロ波アシスト磁化反転の観測
出典:
“Microwave-assisted switching of a single perpendicular magnetic tunnel junction nanodot”, Appl. Phys. Express 8, 023001 (2015).
概要:
 CoPt垂直磁化膜とCoFeB/CoFe面内磁化膜からなるトンネル磁気抵抗素子構造でマイクロ波アシスト磁化反転を観測し、スイッチング磁場・周波数とFMR周波数の関係を調べた。
本文:
 

東芝の首藤らはCoPt/CoFeB/CoFe磁気トンネル接合(MTJ)において、垂直磁化したCoPt膜のマイクロ波アシスト磁化反転を、面内磁化したCoFeB/CoFe膜とのトンネル磁気抵抗(TMR)効果から測定した。超高密度磁気記録素子の実現に向け、マイクロ波アシスト磁化反転の実用化が注目を集めている。著者らはMTJに線偏光マイクロ波を照射して磁化ダイナミクスを誘起し、MTJの電圧変化の直流・交流成分からスイッチングと周波数特性を調べた。CoPtとCoFeBの磁化は安定状態では常に相対角度が90度なのでゼロ磁場ではスイッチングの判定が出来ないが、今回の実験ではCoPtに印加しているスイッチング磁場がCoFeBにも働き、面内磁化を少しだけ面直方向に立たせていることでその判定を可能にしている。著者らは高次を含むFMR周波数とスイッチング磁場の関係を調べ、低周波数側のスイッチング磁場とマイクロ波周波数の関係が最低次のFMR周波数によく合うことを示した。これはスイッチング磁場とFMR周波数に関係はないと主張する先行研究とは異なる結論である。また本論文の図3(c)を見ると、確実に磁化を反転させるにはマイクロ波の周波数を単に大きく(もしくは小さく)すればよいのではなく、あるちょうどいい周波数を照射すればいいことが分かる(この傾向は既に別のグループが報告している、Okamoto et al.,Phys.Rev.Lett.109, 237209 (2012))。しかしこの周波数と材料パラメーターの関係は未だ不明である。このように、マイクロ波アシスト磁化反転にはまだ解明すべき基礎的な物理が数多く残されているように思われる。今回著者らが用いた素子構造はTMR効果を通じて磁化ダイナミクスが観測できるという点で新しく、今後の発展次第では更に詳細な磁化ダイナミクスの観測・解析が可能になると考えられる。また著者らは非線形LLG方程式に基づいたスイッチング理論の先駆的な研究を行うなど(H. Suto et al., private communication)、この分野を引っ張る活躍をしており、今後の発展に期待がもてる。

(産総研 谷口知大)