2.07

2.07 最近の国内研究会から:分子研研究会

「マルチフェロイック/キラル物質の物性」研究会が開催される

   7月17日~18日、分子研において「マルチフェロイック/キラル物質の物性」研究会が開催された。
  「半導体の集積密度は18~24ヶ月で倍増する」というムーアの法則は、経験則として現在に至るまで成立し続けているといわれる(提唱は1965年)。しかし、ムーアの法則は半導体微細加工技術という一元的デバイス設計理念に基づくものであり、今から10年ほどで微細化が原子スケールに到達して破綻をきたすと”危惧”されている。発想を変えて、複眼的な視点でムーアの法則の呪縛から離れる道を探ることはできないのか?
   最近、「ミクロな量子論に立脚した物質設計・物性開発」という視点で基礎物理・化学研究の側からこの問題に迫る試みがわが国で活発化している。本研究会では、この萌芽的な研究の流れを担う研究者が一同に会した。メインターゲットは、強誘電かつ強磁性(複合フェロ)を示すマルチフェロイック物質群である。このカテゴリーに属する物質群が、遷移金属酸化物のみならず有機金属錯体にまで広がったことで研究の幅が飛躍的に厚みを増したのが最近の特徴である。わが国がこの分野で明らかに世界をリードしている点も特筆すべき点である。
  研究会初日は主に遷移金属酸化物系の議論が中心となった。十倉(東大)によるオーバービューでは、「古典電磁気効果と量子効果の結合を制御する」という観点で仕切りなおすことによって新たな基礎物性、ひいては新規の複合物性を掘り出そうという発想の根幹が提示され、参加者を勇気づけた。他に不斉磁性体の磁気光学効果、遷移金属ペロブスカイトの強誘電性と磁性の結合、第一原理計算、有機金属錯体の光誘起磁性についての報告も行われた。
  二日目は主に、井上(広島大)によってごく最近合成された有機透明強誘電磁石 [Cr(CN)6][Mn(R)-pnH(H2O)](H2O)に的を絞った議論が展開された。この物質では、不斉(キラル)分子の配位によるキラルな結晶構造が強誘電性を招来すると同時にキラルな磁気構造が安定化すると予想されている。現状で単結晶を用いた磁気光学測定、中性子散乱、ミューオンスピン緩和、NMR、X線磁気散乱といったさまざまな実験が進行中である。本物質は有機透明物質であり、光応答の観点からも大きな期待を背負っており、今後の進展が強く期待される。
  なお、詳細はhttp://leibnitz.mns.kyutech.ac.jp/~kishine/IMS_conf/imsconf0717.htmを参照されたい。

(九州工大 岸根 順一郎)