194.01

【分野】スピントロニクス

【タイトル】トンネル磁気抵抗比の温度依存性に対する新たな物理描像、重要因子の理論提案

【出典】Keisuke Masuda, Terumasa Tadano, and Yoshio Miura, “Crucial role of interfacial s−d exchange interaction in the temperature dependence of tunnel magnetoresistance”, Phys. Rev. B 104, L180403 (2021).
DOI: 10.1103/PhysRevB.104.L180403

【概要】物質・材料研究機構の増田らは、トンネル磁気抵抗比の急激な温度依存性の起源を理解するため、磁気トンネル接合に対する理論モデルの構築、解析を行った。その結果、界面強磁性層におけるs−d交換相互作用が急激な温度依存性の鍵であることを明らかにした。

【本文】磁気トンネル接合(MTJ)は種々の磁気センサーや磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)に応用されるスピントロニクスデバイスであるが、これらの応用に際しては室温においてより高いトンネル磁気抵抗比(TMR比)を達成することが望まれる。しかし多くのMTJでは温度上昇に伴いTMR比が急激に低下することが知られており、その起源の解明および急激な低下を抑制するための指針の提案が急務とされてきた。
本研究で増田らはFe/MgO/Fe(001) MTJに対する理論モデルを構築し、TMR比の温度依存性を解析した。この理論モデルの特徴は、磁性を担うd電子と伝導を担うs電子の間のs−d交換相互作用が考慮されている点にある。解析の結果、実験で見られる急激なTMR比の減少が現実的なs−d交換相互作用定数Jsdを用いて再現されうることが明らかにされた。また|Jsd|が小さい方がTMR比の温度依存性が小さくなること、およびs−d交換相互作用は界面近傍の強磁性層で主たる寄与を与えることも示された。彼らはさらに個々の強磁性体のJsdを見積もる電子論的方法についても提案を行った。
本研究は長年の課題であったTMR比の温度依存性に対し、新たな物理描像の提案と今後の研究指針を与えるものである。今後、関連の理論実験研究によりTMR比の温度依存性に関する理解がより一層進展することが期待される。

(物質・材料研究機構 中谷友也)

Illustration of the interfacial s-d exchange interaction that plays a crucial role in the temperature dependence of tunnel magnetoresistance

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