185.01

【分野】 磁気物理

【タイトル】窒素サーファクタント効果により作製したL10型FeNi薄膜の垂直磁気異方性

【出典】Kaishu Kawaguchi, Toshio Miyamachi, Takushi Iimori, Yuki Takahashi, Takuma Hattori, Toshihiko Yokoyama, Masato Kotsugi and Fumio Komori, “Realizing large out-of-plane magnetic anisotropy in L10-FeNi films grown by nitrogen-surfactant epitaxy on Cu(001)”
Phys. Rev. Materials 4, 054403 (2020).

【概要】Kaishu Kawaguchiらのグループは走査トンネル顕微鏡にX線光電子分光測定および軟X線磁気円二色性測定を組み合わせた研究手法により、窒素サーファクタント効果を利用して作製したFeNi規則合金薄膜の構造と磁気特性の相関を原子スケールで明らかにした。

【本文】L10型の結晶構造を持つFeNi規則合金薄膜は1.3 MJ m−3までの大きな一軸異方性エネルギー(Ku)を示すこと理論予測されており、ネオジム磁石を凌駕するレアメタルフリー磁性材料として近年大きな注目を集めている。しかし、従来法で作製したL10‐FeNi規則合金薄膜はKuが理想値の半分程度であり、垂直磁化も実現されてこなかった。単原子交互積層時や加熱処理時のFe/Ni界面の原子スケールでの乱れが磁気異方性低下の原因と考えられるが、その詳細は明らかにされてこなかった。
東京大学物性研究所のKaishu Kawaguchiらのグループは界面相互拡散を効果的に抑制する窒化物単原子層の窒素サーファクタント効果を利用したL10‐FeNi規則合金薄膜の高品質化に取り組み、その構造と電子・磁気状態を走査トンネル顕微鏡(STM)にX線光電子分光(XPS)測定および軟X線磁気円二色性(XAS/XMCD)測定を組み合わせた研究手法により調べた。STM観察およびXPS測定の結果、約–100℃でFe, Ni各層を低温成長させ、その後加熱処理を行う2段階成長によって、熱拡散を抑制しながら窒素サーファクタント効果により平坦で規則配列したFeNi規則合金薄膜を作製できることが明らかにした。次に、成長条件を最適化して作製したFeNi 3原子層(NiN/Fe/Ni)および4原子層(FeN/Ni/Fe/ Ni)のXAS/XMCD測定を行い、Fe層の磁化曲線を元素選択的に抽出した。結果、FeNi 3原子層は強磁性を示し、面直・面内配置で測定した磁化曲線の形状比較から垂直磁化が実現されていることがわかった。さらに、XMCD総和則によりFeNi 3原子層中のFe層の軌道磁気モーメント(面直:m⊥orb、面内:m//orb)を評価した。見積もられたm⊥orb (m//orb)の値は、0.31±0.05 μB/atom (0.16±0.07 μB/atom) であり、垂直磁気異方性を示すことが定量的に確認された。
(電気通信大学 宮町俊生)

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