133.01

【分野】磁気物理

【タイトル】分子膜における交換バイアスおよび室温磁気秩序

【出典】
Nature Materials 14, 981-984 (2015).
“Exchange bias and room-temperature magnetic order in molecular layers”
Manuel Gruber, Fatima Ibrahim, Samy Boukari, Hironari Isshiki, Loïc Joly, Moritz Peter, Michał Studniarek, Victor Da Costa, Hashim Jabbar, Vincent Davesne, Ufuk Halisdemir, Jinjie Chen, Jacek Arabski, Edwige Otero, Fadi Choueikani, Kai Chen, Philippe Ohresser, Wulf Wulfhekel, Fabrice Scheurer, Wolfgang Weber, Mebarek Alouani, Eric Beaurepaire & Martin Bowen

【概要】
強磁性Co薄膜に成長させたマンガンフタロシアニン分子膜のX線磁気円二色性測定を行い、分子膜はCo薄膜との磁気結合により室温においてその磁気秩序が保たれていることを明らかにした。さらに磁気光学カー効果測定によって反強磁性的な磁気秩序を伴うマンガンフタロシアニン分子膜が下地層であるCo薄膜の磁化をピン止めし、交換バイアスを発現させることを示した。

【本文】
近年、「低コスト」、「柔軟性」、「簡易プロセス」等の観点から、既存の無機材料から構成される磁気デバイスの代替として有機分子を利用したデバイス創成に関する研究が基礎・応用の観点から注目されている。
 Institut de Physique et Chimie des Matériaux de Strasbourg (IPCMS)(仏)のManuel Gruberらの研究チームはCu(001)基板上の強磁性Co薄膜にマンガンフタロシアニン分子膜を成長させ、その磁気状態をX線磁気円二色性(XMCD)測定により調べた。
 マンガンフタロシアニン分子膜の膜厚が1層の場合、CoおよびMnの2p→3d内殻吸収端でのXMCDシグナルの符号が同符号であったことから、強磁性Co薄膜と分子膜は強磁性的に磁気結合していることがわかった。分子膜のXMCDシグナルの膜厚依存性を調べた結果、1層目はCo薄膜と強磁性的に、2層目は1層目と反強磁性的に磁気結合し、室温においてその磁気秩序が保たれていることが明らかになった。膜厚が3層以上でも分子膜の反強磁性的な磁気秩序は維持されているが、XMCDシグナルの測定温度および印加磁場依存性から常磁性的な振る舞いを示すマンガンフタロシアニン分子の存在が示唆された。走査トンネル顕微鏡による表面観察の結果から、膜厚の増加に伴う分子膜表面のラフネスの増大により分子間の磁気結合が弱まったことが原因だと考えられる。観測された分子膜の反強磁性的な磁気秩序は第一原理計算により再現され、Co薄膜との界面での磁気結合(spinterface)によって安定化されていることが示された。次に、マンガンフタロシアニン分子膜に発現した反強磁性的な磁気秩序が下地層であるCo薄膜に与える影響を調べるため磁気光学カー効果測定を行った。結果、磁化曲線のシフトが観測され、分子膜によって誘起された交換バイアスの影響で100 K程度までCo薄膜の磁化がピン止めされることが示された。本研究結果により分子スピントロニクスデバイスの研究開発が大きく加速すると期待される。

(東京大学 物性研究所 宮町俊生)