93.01

分野:
磁気物理
タイトル:
元素置換によるデラフォサイト酸化物のマルチフェロイック化
出典:
1) http://www.nims.go.jp/news/press/2012/08/p201208081.html
2) N. Terada, D. D. Khalyavin, P. Manuel, Y. Tsujimoto, K. Knight, P. G. Radaelli, H. S. Suzuki and H. Kitazawa: Phys. Rev. Lett., in press (2012).
 
 
概要:
 独立行政法人物質・材料研究機構の寺田典樹氏らの研究グループは、デラフォサイト酸化物であるCuFeO2の非磁性イオンであるCuをAgで置換することにより、通常、無磁場下では強誘電性を示さない物質に強誘電相転移を誘起し、マルチフェロイック材料としての応用の可能性を開いたことを報告した。また、同研究グループはラザフォード・アップルトン研究所およびオックスフォード大学との共同研究によりAgFeO2 が、隣り合ったスピンが互いに一定の角度で回転するサイクロイド磁気構造を有することを明らかにし、この長周期の磁気秩序によって空間反転対称性の消失を引き起こし、強誘電性が発現したと結論付けている。
 
 
本文:
 独立行政法人物質・材料研究機構の寺田典樹氏らの研究グループはラザフォード・アップルトン研究所およびオックスフォード大学との共同研究において、デラフォサイト酸化物であるCuFeO2の非磁性イオンであるCuをAgで置換することにより、無磁場下では、反強磁性体としての性質しか持たない物質に強誘電相転移を誘起し、マルチフェロイック材料としての応用の可能性を開いたことを報告した。本報告はPhys. Rev. Lett.に掲載予定であることが、同研究機構のプレスリリースににより報じられており、その研究概要が掲載されている。それによると、物質・材料研究機構の超高圧合成装置を用いることで、CuFeO2の非磁性イオンであるCuをすべてAgイオンに置換したAgFeO2の合成に成功し、無磁場下で誘電分極が発現することを明らかにした。この試料の誘電分極測定を行った結果、磁気相転移温度と同じ約9Kにおいて、誘電分極が発現することを見出した。また、英国のラザフォード・アップルトン研究所のグループとの共同研究により、三角格子反強磁性体として知られるCuFeO2 では、すべてのスピンが三角格子に垂直方向を向くコリニア磁気構造を取るのに対して、AgFeO2 では、隣り合ったスピンが互いに一定の角度で回転しているサイクロイド磁気構造を有しており、長周期の磁気秩序を形成していることを明らかにした。このスピン秩序が空間反転対称性の消失を引き起こし、強誘電性発現の原因となったものと結論付けている。
 本研究の注目すべき点は、磁性の起源であるFeイオンはそのままに、従来、あまり重要視されていなかった非磁性イオンの置換によって誘電分極を発現させ、マルチフェロイック材料としての特性を大幅に改善した点にある。現段階では、AgFeO2の強誘電性は9K 以下の極低温でしか発現しないため、強誘電相転移温度を高めることが望まれるが、材料探索に新しい指針を与え、室温で動作する新規マルチフェロイック材料の開発に繋げられれば、次世代大容量記憶メモリ、エネルギー変換デバイス開発に大きく貢献することが期待されるとしている。

(埼玉大学 柿崎 浩一)