88.01

分野:
磁気物理
タイトル:
Landau-Lifshitz-Bloch方程式に基づいた磁化ダイナミクスの理論研究
出典:
“Stochastic form of the Landau-Lifshitz-Bloch equation” Phys. Rev. B 85, 014433 (2012)
 
 
概要:
 Landau-Lifshitz-Bloch方程式に基づいて磁化ダイナミクスを記述する理論を構築した。本成果は発熱を伴うスピントロニクス・デバイスの設計等に有用となる可能性がある。
 
 
本文:
 ヨーク大学のEvansらは強磁性体の磁化のダイナミクスを理論的に記述する手法として揺動磁場を含むLandau-Lifshitz-Bloch (LLB) 方程式を構築した。不揮発性磁気メモリ(MRAM)などのスピントロニクス・デバイスの研究開発が盛んに行われている中、磁化ダイナミクスの基礎理論の確立は重要な課題となっている。磁化ダイナミクスを記述する手法としては、Landau-Lifshitz-Gilbert (LLG) 方程式が用いられることが多い。LLG方程式では磁化の大きさが一定と仮定されているが、これは強磁性体の温度がCurie温度より極めて低い場合に正しい。一方、高い抵抗を持つ磁気トンネル接合に直接電流を流すMRAMなどのスピントロニクス・デバイスではJoule熱によって素子の温度が室温より高くなるため、磁化の大きさが一定というLLG方程式の仮定が破れる可能性がある。LLB方程式は磁化の縦緩和と横緩和の両方を含んでおり、低温では横緩和が主要項となってLLG方程式と等価となるが、高温では縦緩和によって磁化の大きさの減少を記述することができるという点でLLG方程式より優れている。更に揺動磁場をLLB方程式に加えることでランダムな磁化ダイナミクスを記述することが可能となる。しかし揺動磁場の導入は現象論的なものであり、その理論形式に任意性が生じるという問題がある。EvansらはLLB方程式から導かれるFokker-Planck方程式に着目し、その定常解がBoltzmann分布となるという要請から揺動磁場の解析的な表式を導出した。そしてLLB方程式を数値的に解くことでBoltzmann分布が実現することを確認した。これは彼らの理論が統計力学の観点から妥当なものであることを示している。Evansらが強調しているように彼らの理論は強磁性体の温度が高くなるほど重要になるものであり、スピントロニクス・デバイス設計等に有用となる可能性がある。しかしそのためには、スピントルク効果が存在するときのLLB方程式はどうなるのか、磁化ダイナミクスによる抵抗変化に伴うJoule熱の時間変化をどのように考慮するかなど、基礎的な部分で発展させなければいけない課題が多く残されている。

(産総研 谷口 知大)