65.01

分野:
磁気物理
タイトル:
磁性ナノ細線におけるパルス磁場を用いた高速磁壁移動
出典:
“Fast Domain Wall Propagation under an Optimal Field Pulse in Magnetic Nanowires” Z. Z. Sun and J. Schliemann, Physical Review Letters 104, 037206 (2010)
概要:
磁場による磁壁移動の様子を、LLG方程式を用いて解析的に調べた。磁化の運動に応じて磁場の向きを空間的および時間的に最適化することで、磁壁移動の速さが従来の値に比べおよそ2桁程度大きくなることが理論的に示された。
本文:
レーゲンスブルク大学のSunとSchliemannは外部磁場が印加された1次元磁壁における磁壁移動の様子を、LLG方程式を用いて解析的に調べた。磁壁移動速度が強磁性体の物質定数や外部磁場にどのように依存するかを明らかにすることは、レーストラックメモリーなどのスピンエレクトロニクス・デバイスの設計において重要である。一様な定常磁場による磁壁移動は1970年代より理論・実験の両面からよく研究されており、一軸異方性を持つ強磁性体での移動速度は外部磁場の大きさとGilbert定数αの積に比例することが確かめられている。SunとSchliemannは、外部磁場の大きさが一定という条件の下で磁壁移動の速さを最も大きくするには外部磁場をどの向きに印加すればよいか、という問題を取り上げた。彼らはLLG方程式から球座標における磁場の成分を解析的に求めることに成功した。得られた解は磁化の容易軸からの傾き角度θとパラメーターuに依存する。磁壁移動に伴って角度θは空間的および時間的に変化するので、外部磁場の向きも変化しなければならない。一方、uは容易軸に垂直な面内での磁場の向き(右回りもしくは左回り)を決めるパラメーターである。磁場の向きを最適化することで、磁壁移動の速さの最大値は外部磁場の大きさに比例することが示された。従来の一様磁場による磁壁移動に比べ、最適化された磁壁移動の速さはGilbert定数α≒0.01の逆数倍、つまり2桁程度大きい。磁壁の運動に応じて磁場の印加方向を変えることは技術的に難しいので、本論文で示された結果を実験的に確かめるのは困難であろう。しかし磁壁移動の速さの上限を見出したという点で本研究はスピンエレクトロニクスの分野に大きく寄与したといえる。今後はスピントルクによる磁壁移動の速さの最大値を見積もることが課題となる。 

(筑波大学・産総研 谷口知大)