64.02

分野:
磁気物理
タイトル:
スピントルク強磁性共鳴の非線形領域測定
出典:
“Spin-torque driven ferromagnetic resonance in a nonlinear regime”, W. Chen et al.,, Appl. Phys. Lett. 95, 172513 (2009),
概要:
Co/Cu/CoNi多層膜に交流電流を流し、スピントルク強磁性共鳴によって生じる直流電圧の電流振幅依存性を測定した。測定の結果、交流電流の振幅が大きく磁化の非線形運動が誘起される場合には、異なる磁場の値に対して信号電圧がピークを持つことが明らかになった。ナノスケールの磁場センサーへの応用が期待される。
本文:
 ニューヨーク大学のA.D.Kent教授のグループとIBMのJ.Z.Sun博士はCo/Cu/CoNi多層膜に交流電流を流し、スピントルク強磁性共鳴によって生じる直流電圧の電流振幅依存性を測定した。CoNi(自由層)およびCo(固定層)はそれぞれ膜面に垂直および平行に磁化しており、試料には膜面垂直方向から2度ずらして磁場(数kG)が印加されている。CoNi層の磁化はスピントルクによって磁場周りに歳差運動を行い、磁化の歳差運動の周波数と交流電流の周波数が一致した場合に信号電圧が最大となる。同グループは以前(APL92)に同様の実験を報告しているが、以前は交流電流の振幅が1.0mAより小さかったのに対し、本研究では9.0mA程度まで大きくしている。このような大きな交流電流を印加しながら磁場の大きさを変化させると、磁化の歳差運動の振幅がその変化の向きに依存する非線形運動が発現し、信号電圧の磁場依存性にヒステリシスが現れると予想される。ヒステリシスの2つの分岐に対応する磁化の歳差運動の振幅は異なり、低磁場側の分岐の方が歳差運動の振幅は大きい。実験ではこのヒステリシスが観測されたが、ヒステリシスの幅が極めて小さいため信号電圧はピークを持つように見える。このピーク位置は交流電流の振幅を大きくすると低磁場側にずれるが、そのずれはマクロスピンモデルによる数値解析の予想より小さい。著者はこの実験と理論のずれの原因として、電流により生じた熱のために大きな振幅を持った磁化の運動が発現しやすくなり、ヒステリシスが減少したのではないかと推測している。交流電流の振幅に応じて信号電圧が異なる磁場の値に対してピークを持つことから、ナノスケールの磁場センサーへの応用が期待される。 

(筑波大学・産総研 谷口知大)