63.01

分野:
磁気物理
タイトル:
パーマロイ細線におけるスピン緩和のスケーリング
出典:
“Scaling of spin relaxation and angular momentum dissipation in permalloy nanowires”, T. A. Moore et al., Phys. Rev. B 80, 132403 (2009),
概要:
 スピントランスファー効果によって誘起される磁壁の運動の観測からパーマロイのギルバート定数αとスピントルクの非断熱項の大きさβの比β/αを見積もった。得られた比の値は約6~16であり、従来のβ/α≒1という報告と大きく異なるものであった。
本文:
 コンスタンツ大学のMooreらはパーマロイ・ナノ細線に電流を流し、伝導電子から局在磁化へのスピントランスファー効果によって誘起される磁壁の運動を、X線磁気円二色性光学顕微鏡(XMCD-PEEM)を用いて測定した。そしてウォーカー・ブレイクダウンの起こる電流密度からスピントルクの非断熱項の大きさβを見積もった。また強磁性共鳴からパーマロイのギルバート定数αを見積もり、比β/αのスケーリングを行った。この比β/αを見積もることは強磁性体における電気伝導のスピン依存性やスピン緩和メカニズムの理解のために重要である。Mooreらはパーマロイにホルミウムをドープすることでαとβの大きさを様々な値に調整した。ホルミウムのドープ量を0%から10%まで変えることによりαは0.008から0.26まで、βは0.13から1.56まで変化する。実験の結果、ホルミウムのドープ量が4%以下では比β/αは約16と一定であるが、ホルミウムのドープ量が10%の場合には比β/αは約6と見積もられた。ホルミウムのドープ量に対する比β/αの変化は、ホルミウムのドープによってパーマロイの構造が結晶質からアモルファスに転移し、スピン緩和が小さくなったことが原因と考えられる。またβ/α>>1という結果は他のグループによってこれまでに報告されているβ/α≒1という結果と大きく異なる。今回の報告ではなぜ大きな比β/αが得られたかの具体的な理由は明らかにされておらず、その原因を解明することは今後の理論的研究が取り組むべき重要な課題である。
 

(筑波大学・産総研 谷口 知大)