1.10

1.10 最近の国際会議,国内会議から:ICNDR、PASPS-10

室温強磁性半導体開発:理論的予測の再考

  大野(東北大)や宗片(阪大)らにより見出された強磁性半導体(Ga,Mn)Asおよび(In,Mn)AsのTcは110K程度と低いため、室温以上で強磁性となる新材料の開発が期待されている。Dietlらは、半導体のバンド構造をベースにスピン-キャリア相互作用を現象論に取り込んだ理論にもとづき(Ga,Mn)Asおよび(In,Mn)AsのTcの値を説明できることを示すとともに、このモデルによればワイドギャップのGaNとZnOに5%のMnを置換した物質で室温を超えるTcが実現可能であると予想した(Science287,1019(2000))。

  5月に開催されたInt. Conf. Nanospintronics Design and Realization (ICNDR http://www.dyn.ap.eng.osaka-u.ac.jp/ICNDR2004/)のメインテーマはこのTcの理論予測であった。6月に開催された第10回「半導体スピン工学の基礎と応用」研究会(PASPS-10http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/public/paspsadm/)でもこの問題がトッピクスの一つであった。Dedereichsら(ICNDR 25A-05: Exchange Interactions and Curie Temperatures in Diluted Magnetic Semiconductors)、佐藤ら(PASPS-10 A1: First-Principle Study on Exchange Interactions and Curie Temperatures in Diluted Magnetic Semiconductors )ほか多くの講演からは、母相半導体がワイドギャップであるほどTcが高いというイメージのこれまでの理論モデルは修正が必要とのコンセンサスが得られつつあるような印象を受けた。

  一例として、佐藤らの講演内容を単純化してまとめる次のようになる。当初考えられたように、ワイドギャップ半導体ほどスピン-キャリア相互作用は強くなるものの、同時にこの相互作用の及ぶ距離が短くなってしまうとということがわかった。特に、遷移金属イオンの濃度が薄い場合には、遷移金属イオン間の距離が長くなるためにワイドギャップ半導体は不利である。相互作用距離の点ではナローギャップ半導体のほうが有利である。このように(Ga,Mn)Asと(Ga,Mn)NのTcを決めるメカニズムは同じではない。高いTcを得るためには、バンドギャップの大きさだけではなく、相互作用距離のより長い系、高い遷移金属イオン濃度が実現される系を探すことが必要である。

  このような理論予測の再考により、実験面でも今までとは違うタイプの物質系も視野に入れる必要があろう。一方で、強磁性半導体で見られる多様な実験結果と、現在の理論的理解の間にはまだ多くの矛盾点があり、我々が良く理解できていない面白い物理を含んでいる可能性もあることを示している。しばらくは、実験と理論の双方で既成概念にとらわれない議論が必要であろう。

(産総研:安藤功兒)