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第70回ナノマグネティックス専門研究会報告

日時:
2016年5月27日(金) 13:30~16:45
場所:
日本大学 理工学部駿河台キャンパス5号館
参加者:
14名

 今回のナノマグネティックス専門研究会では、ナノカーボンを用いた種々の機能デバイスの紹介や、導電性高分子薄膜のスピン緩和機構、及び、エナジーハーベストに向けたスピントロニクス技術の活用展望について、世の中の動向と研究成果のエッセンスをわかりやすく御講演いただいた。また、TiドープMgOを用いた磁気トンネル接合の磁気抵抗効果特性及び垂直磁気異方性について、最新の優れた結果と解析結果の紹介があった。本研究会では発表の途中でも質疑可能なスタイルを採っているため、非常に活発な議論を行うことができた。

  1. 「ナノカーボンを用いた光デバイスおよび超伝導デバイス開発」
    ○牧 英之(慶大)

     カーボンナノチューブやグラフェンといったナノカーボン材料を用いた発光素子および単一光子発生、金ナノワイヤーでの単一電子輸送、カーボンナノチューブをテンプレートとした超伝導ナノワイヤーに関する研究の紹介がなされた。ナノカーボンデバイスでは、発光素子の例として主に高速・シリコンチップ上の黒体放射デバイスや単一光子発生について示された。また、Auナノワイヤーや超伝導ナノワイヤーを用いた量子輸送特性についても説明があり、金属や超伝導体においてもナノサイズ化による新たな物性発現について紹介された。ナノ材料特有の低次元性に起因する様々な量子現象は、高集積光デバイス・量子暗号・単一電子トランジスタ・超伝導デバイスなどへの応用が期待される。

  2. 「導電性高分子薄膜におけるスピン緩和」
    木俣 基(東大)

     有機半導体は炭素や水素等の軽元素から構成されるためスピン軌道相互作用が小さく、長いスピン緩和時間や長距離スピン伝導が期待される物質群である。しかし通常の金属や半導体材料とは異なり、有機半導体膜の多くは乱れの大きなアモルファス構造を持つため、そのスピン伝導や緩和の機構は明らかになっていない。今回の発表では有機半導体の中でも高い電気伝導率を示す導電性高分子膜において、スピン注入実験から得られるスピン拡散長と電気伝導測定から得られる電荷のホッピング長の比較がなされた。その結果、電荷がホッピングする過程においてもスピンは保存される事が明らかになり,有機半導体におけるスピン緩和が主に分子グレイン中の局在状態において起こっていることが示された。

  3. 「エナジーハーベストに向けたスピントロニクス研究」
    湯浅裕美(九大)

     スピンゼーベック効果を利用した発電について、スピンホール角向上と、スピンミキシングコンダクタンス向上の2つの方針で起電力増加を試みた結果が報告された。非磁性金属層には、スピンホール角は大きいが酸化されやすいβ-Taとβ-Wに替わり、酸化の抑制されるTa/W積層体が用いられた。巨大スピンホール角による起電力向上が期待されたものの、β-Taとβ-Wに比べ起電力は低下し,原因は磁性層のイットリウム鉄ガーネット(YIG)との界面におけるスピンミキシングコンダクタンスが小さいことであった。一方、YIGとPtの界面にごく薄いNiFeを挿入することで、スピンミキシングコンダクタンスを向上することに成功した。今後はこれら2つの方針を組み合わせ両立することで、起電力の向上を図っていくことが述べられた。

  4. 「TiドープMgOを用いた磁気トンネル接合と垂直磁気異方性」
    葛西伸哉(物材機構)

     TiドープMgO(MTO)を用いた磁気トンネル接合(MTJ)の紹介がなされた。Tiドープによるバリア高さ低減によって、低抵抗MTJを形成することができる。特に10 m2以下の低RA領域では、標準的なMgO-MTJに比べて高い磁気抵抗比を維持することができることが示された。TEM観察によって4原子層程度のバリア厚ではTi添加によって欠陥密度が低減されている様子が確認された。その他、MTO/CoFeB積層膜において、界面誘導磁気異方性による垂直磁化膜が形成可能であることが紹介された。磁気異方性はMgOの場合と同程度であるが、バリア厚に依存しないという、MgOの場合とは異なる特性が得られている。