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第39回日本磁気学会学術講演会シンポジウム報告

(第65回ナノマグネティックス専門研究会)

シンポジウム “Tutorial symposium on theoretical calculation and computer physics in magnetics and magnetism”

日 時:
2015年9月11日(金) 13:00~17:30
場 所:
名古屋大学 A会場
参加者:
65名
  1. “Mapping of theoretical approach in magnetics –coarse graining theory-”

    ○C. Mitsumata (NIMS)

  2. “Fundamental knowledge of first-principles calculation”

    ○M. Shirai (Tohoku Univ.)

  3. “Theory of electron transport in the presence of magnetization textures”

    ○G. Tatara (RIKEN)

  4. “Numerical methods for quantum magnets”

    ○S. Miyashita (Univ. of Tokyo)

  5. “Micromagnetic Simulation”

    ○Y. Nakatani (UEC)

  6. “Finite element analysis for electromechanical design”

    ○T. Yamada (JSOL)

 磁性・磁気に関した理論および計算手法について六名の講師を招いてチュートリアル講演によるシンポジウムを開催した.学生および実験系の研究者を対象としたチュートリアル講演であることを考慮し,講演・質疑は日本語で行われた.
 種々の計算手法に関する講演の前に,三俣氏(物材機構)から磁性・磁気の分野で用いられる主な計算手法と理論についての枠組みについての解説がなされた.各種の計算手法についての概略が述べられた後,それぞれが得意とする計算対象およびスケールに適切なモデル化の重要性が実例を挙げながら示された.白井氏(東北大)からは,種々の物性値やバンド計算に用いられる第一原理計算についての講演があった.歴史的な経緯を踏まえながら,コーン・シャム方程式に基づいた密度汎関数理論による解法についての概説があった.局所密度関数による近似は極めて強力な方法であることを示したうえで,取り扱いが困難な強相関電子系や半導体への適用に用いられている手法についても紹介があった.多々良氏(理研)からは,金属強磁性体の磁壁を例にとって磁気構造中でのスピン依存伝導について解説がなされた.式を使わない現象論による直感的な説明から始まり,量子力学的な考え方の導入,場の理論を用いたアプローチへと順を追って分かりやすく説明がなされた.また,関連する話題としてRashba効果による巨大な有効場の発生の可能性の指摘と,実証するための実験の提案があった. 宮下氏(東大)は,量子スピン系についての計算手法と最近の話題について解説があった.計算手法として波動関数を対角化する手法と量子モンテカルロ法の紹介がなされた.実際の計算対象である一次元スピン鎖やカゴメ格子などについて触れながら,密度行列くりこみ群法などの新しい解法や量子スピン系の計算の際に注意すべきことについて解説があった.また,東大・藤堂氏らにより開発がすすめられている量子スピン系の無料の計算パッケージALPS(Algorithms and Libraries for Physics Simulations)についても紹介があった.仲谷氏(電通大)からは,ナノ構造の動的・静的磁化過程の理解に広く使われるマイクロマグネティクス計算の概念と手法について講演された.計算対象とする系の特徴を抽出してモデリングする重要性を,細線中の磁壁移動に関する実際の研究成果を例として示しながら説明された.また,最近では実験系の研究者が自ら計算できる環境も整ってきていることから,実際に計算を行う際に注意すべきパラメータについても指摘があった.山田氏(JSOL)からは,工業分野で広く用いられている有限要素法による電磁界シミュレーションについての講演があった.計算機解析の歴史や市場規模の説明があり,磁気の分野では自動車分野におけるモーターの解析で需要が増えているとのことであった.自動車用モーターにおいてはサイズの制限が厳しい上に飽和領域を用いるなど,従来とは異なる設計思想に基づいており,材料も含めた損失のモデル化が計算精度の向上に必要であるとの報告がなされた.
 今回のシンポジウムは講演会で初めてのチュートリアルセッションという試みであり,学術講演会最終日の午後という日程にも関わらず多数の聴講者の参加が得られた.また,いずれの講演においても多くの文献が引用され,初学者への導入としても非常に貴重であった.

文責: 代表世話人 菊池伸明(東北大)
五十嵐 万壽和,細見政功(ソニー)