第43回ナノマグネティックス専門研究会報告

日 時:
2011年10月13日(木)13:15~17:30
10月14日(金)9:30~12:00
場 所:
東京電力(株)柏崎エネルギーホール
共催:
電子情報通信学会;磁気記録・情報ストレージ(MR)研究会
映像情報メディア学会;マルチメディアストレージ(MM)研究会
IEEE CE Soc. Japan Chapter
参加者:
40名

 上記研究会との共催で、磁気記録・情報ストレージ技術に関する11件の研究テーマを集めた一泊研究会を行った。磁気記録に関わる技術レベルの高い研究成果の報告に刺激を受けつつ、互いに議論を深めることができた。また、磁気記録技術に関連した新領域として注目されているスピントロニクスや、新しい光ストレージとして着目されているホログラムに関する興味深い成果報告や解説が行われ、磁気記録技術の幅広さと奥深さを実感できる有意義な研究会となった。

  1. 「 〔チュートリアル招待講演〕
     スピントロニクスの基礎と最近の技術動向

     -磁界センサのための応答・ノイズ特性を中心として- 」

    鈴木義茂(阪大)


     スピントロニクスの最近の動向を、電子のスピン角運動量の輸送の基礎的な概念とモデルの説明からスタートして、最近のトピックまで幅広く紹介する、チュートリアル講演であった。トンネル磁気抵抗素子を例にS/Nを議論し、線形応答の範囲では応答関数の改善(磁気応答、磁気抵抗効果)はS/N改善につながらず、素子の冷却や非線形応答の利用、新しい原理に基づく素子の開発が必要であることが示された。その一例として、非局所磁気抵抗効果を用いた磁界センサの性能をトンネル磁気抵抗効果素子と比較し、高スピン抵抗で、かつ大きなバイアス電流が流せるならば、優位性を持つ可能性があることが示された。また、関連して巨大ペルチェ効果、スピントルク発振などの最近の観察例も紹介された。

  2. 「平面型記録ヘッドの高周波マイクロマグネティック解析」

    細貝秀人・金井靖(新潟工科大)、山川清志(秋田県産業センター)、吉田和悦(工学院大)、Simon Greaves・村岡裕明(東北大)


     強い磁界強度と急峻な磁界傾度を有する平面型記録ヘッドのマイクロマグネティック記録磁界解析を行い、高記録周波数への追随性を高める因子を検討した結果が報告された。その結果、高転送レートを実現するためには、コイル位置を主磁極ポール先端に近づけること、ヨーク高さを低くすることが重要であること、一方で、ヨーク幅依存は小さいことが示された。そのほか、ヘッド材料、媒体裏打層のパラメータの内、ギルバートの制動定数依存性が見られる一方で、交換定数、異方性定数は高周波応答特性に影響しないことが示された。

  3. 「マイクロ波アシスト磁気記録用スピントルクオシレータの実現可能性」

    松原正人・椎本正人・長坂恵一・西田靖孝・田河育也(日立GST)、
    城石芳博(日立)


     マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)におけるスピントルクオシレータ(STO)の実現可能性を検討した結果が報告された。実際のSTOにおいて、スピントルクに起因する10GHz近傍のシャープな発振ピークを観察し、外部磁界により高周波数側にシフトすることから、磁界発生層(FGL)の磁化がout-of-planeで回転していると分析している。また、垂直磁気膜を積層したFGLでは、単磁区での発振が実現していることをシミュレーションと実験の比較から示した。当日の発表では、ドラッグテスター上の実験で、STOからマイクロ波を印加することで記録パターンにアシスト効果による変化が現れた結果が報告された。

  4. 「〔招待講演〕NiFe/MgO/Ag接合を用いた面内スピンバルブ構造におけるスピン蓄積信号の増大」

    福間康裕・王 楽(理研)、井上宏(東大)、大谷義近(東大/理研)


     面内スピンバルブ構造におけるスピン蓄積信号を、従来の磁性/非磁性のメタル接合部にMgOを形成することで出力信号を高めた結果が報告された。MgO膜厚や熱処理条件依存性などを調べ、数百μVの出力信号が得られている。この向上のメカニズムは、NiFeに比してAgのスピン抵抗が非常に高いことで、スピン注入効率が非常に低い状態であったのが、MgOの挿入で界面抵抗が上昇することでスピン抵抗の不整合が解消される方向に変化し、その結果スピン蓄積効率が向上することによるものであると説明された。

  5. 「光ディスクの光ヘッド制御シミュレーションのための周期的外乱モデル」

    尾形頭國・崎村直秀・中崎竜也・大石 潔・
    宮崎敏昌・佐沢政樹(長岡技術大)、
    小出大一・徳丸春樹(NHK)、

    高野善道(NHKエンジニアリングサービス)


     従来の単一正弦波のみを仮定したモデルから、一般的な複数の高調波からなる周期外乱モデルを使うことで、より実機に近いヘッド制御シミュレーションを実現したことについて報告がなされた。フィードバック制御、フィードフォワード制御共に、提案するモデルのほうが、実験結果に近い結果となっていることが示された。

  6. 「透過型偏光素子による層間クロストーク低減評価」
    達永里子・木村茂治・井手達朗・黒川貴弘・渡辺康一(日立)


     2層BDにおけるトラッキングエラー信号測定を行い、波長板と偏光板からなる透過型偏光素子を検出器の前に設置して迷光を除去する方式により、プッシュプル信号揺らぎがほぼ半減、DPP信号揺らぎは5%以下へ低減されたことが報告された。また、揺らぎの周波数解析により層間変動に起因する成分が透過型偏光素子によって実際に除去されていることを確認したことも示された。

  7. 「集積型ホモダイン検出光学モジュールの検討」
    三上秀治 黒川貴弘 渡辺康一 (日立)


     光ディスク再生信号のS/N比向上が可能なホモダイン検出光学系において、小型・低コスト化を目的としたモジュールの試作及び評価結果の報告。10mmx30mmサイズの試作モジュールを用いた単層BD-R再生信号を取得し、信号光パワー2.7Wにおける再生信号ジッタを従来方式の15%から7.8%に改善された結果が紹介され、光ピックアップに搭載可能なモジュール寸法において、ホモダイン検出による光ディスク再生信号品質の改善が可能であることを実証された。

  8. 「トラック間非同期瓦記録用繰り返し適応ITIキャンセラ」
    藤井正明 (サムソン)


     瓦記録方式における幅広再生ヘッドにより読み出される再生信号の時変トラック間干渉(ITI)問題に対応する繰り返し適応ITIキャンセラの提案がなされた。シミュレーションにより、本提案方式はトラック間のクロック周波数差0.02%においてオフトラック率が50%程度までITIが無い場合のビット誤り率に近い信号検出・復号特性が得られることが示された。

  9. 「多元LDPC符号化2次元磁気記録用繰り返しITIキャンセラ」
    藤井正明 (サムソン)


     2次元磁気記録方式で幅広再生ヘッドをトラック中央に沿って走査した場合の再生信号に発生する隣接トラックからのトラック間干渉(ITI)に対応する繰り返しマルチトラックITIキャンセラの提案がなされた。シミュレーションにより、本提案方式は両側オフトラック率が50%程度までITIが無い場合のビット誤り率に近い信号検出・復号特性が得られることが示された。

  10. 「ホログラムメモリにおけるモルフォロジフィルタ処理」
    近藤 陽 山岸泰之 志垣裕介 山本 学 (東理大)


     ホログラムメモリの記録・再生時に光学系の波面収差などによって画質が劣化し、ビット誤り率が増大する問題に対し、非線形で高速化が可能な信号処理法としてモルフォロジ演算を用いたフィルタ処理方法が検討され、種々の条件下での結果が議論された。

  11. [招待講演]「CMOS/スピントロニクス融合技術による不揮発ロジックシステムの展望」
    菅原 聡 周藤悠介 山本修一郎 (東工大・CREST)


     CMOSロジックとスピントロニクス技術の融合による不揮発ロジックシステムの展望についてのレビュー。一般的なMOSFETではCMOSロジックのスタティックパワー削減が限界に達し、不揮発ロジックシステムの導入が望まれているなか、解決策となるアーキテクチャーとしてNonvolatile Power-Gating(NVPG)が提案されている。CMOSとMRAMの融合技術で実現できる疑似スピンMOSFETを用いればNVPGの実現に必要なNV-SRAMとNV-FFを容易に構成することができるため、本提案は具現性の高い技術である。本講演では、ロジックシステムの概論からNVPGの具体的な構成に至るまで詳しく紹介された。

文責:鴻井克彦(東芝)、細見政功(ソニー)