第234回研究会

テーマ:
「医療分野での磁気関連技術の新展開」
日 時:
2021年11月22日(月) 13:00~16:40
場 所:
オンライン開催(Zoom)
参加者:
38名

近年の磁気計測技術や磁界制御技術の進展により,医療分野における磁気関連技術の活用が盛んに行われている.本研究会の前半では磁気ナノ粒子を利用した診断・検査技術について,後半では高感度磁気センサを用いた生体磁気計測技術,ならびに磁気を利用したアクチュエータとその制御技術について講演いただいた.非侵襲・非接触といった磁気の特徴のさらなる活用が期待され,各講演で活発な議論がなされた.

    1. 「磁気粒子イメージングの最新動向」
      ○吉田 敬(九大)

      磁気ナノ粒子の非線形磁化を利用した磁気粒子イメージング(MPI)技術の基本原理が概説されたのち,最新の研究例として,細胞内外の磁気ナノ粒子を弁別できるイメージング技術や,人体頭部用MPIスキャナが紹介された.今後の臨床応用や人体サイズへの拡大に向けては,交流励磁手法や傾斜磁場の形成,最小検出磁界の低減が課題であり,産学における最近の研究プロジェクト例が紹介された.

    2. 「磁気ナノ粒子を用いたバイオ医療計測と応用」
      ○薮上 信(東北大)

      高齢者の健康状態把握の手段として,磁気ナノ粒子(MNP)を用いた口腔内細菌検出技術とその実証結果が報告された.MNP単体と,抗体を介して細菌と結合したMNPとの磁化反転の差異を利用した磁気免疫測定法が紹介され,異なる抗体で被覆したMNPを用いて種々の細菌量を定量化できることが示された.検出速度を高速化した臨床適用可能な実証機についても動画を交えて紹介された.

    3. 「生体磁気計測のための光ポンピング磁気センサモジュールの開発」
      ○加藤統久1,山田将来1,大谷康介2,伊藤陽介2,小林哲生2 
      1浜松ホトニクス,2京大)

      近年,脳磁図計測などの生体磁気計測分野に盛んに用いられている光ポンピング磁気センサ(OPM)について紹介された.新たに開発した外形20×20×60 mmのOPMモジュールを用い,磁気シールドルーム内で脳磁図・心磁図を計測した例が紹介された.今後の展望として脊磁計への適用や,磁気シールドレス化に向けた取り組みが示された.

    4. 「生体計測用MR磁気センサ開発の経緯と現状」
      ○辰岡鉄郎1,2,橋本 淳2,星野優子2,関原謙介2,澁谷朝彦1,2,足立善昭3,川端茂徳2
      1TDK,2東京医科歯科大,3金沢工大)

      産学連携による共同研究体制にて生体計測用MR磁気センサの開発を開始し,心磁図計測,末梢神経磁場計測を経て,6年間で体性感覚誘発脳磁場(SEF)の計測に成功するまでの足跡と現状について紹介された.開発当初,低周波領域で20 nT/Hz1/2だった磁場分解能は現在3 pT/Hz1/2まで向上し,加えて信号処理技術を改善することでSEFの計測が可能となった.今後の劇的な性能改善には,磁場分解能向上のみならず技術的ブレークスルーが必要であることが示された.

    5. 「カプセル型医療デバイスへの応用を目指した磁気アクチュエータ」
      ○本田 崇,木村公亮,好田拓矢,田村 静,青柳陽太(九工大)

      診断や治療のできる次世代のカプセル内視鏡の実現に向け,外部磁界によるワイヤレス駆動技術の研究が進められている.講演では,電磁石を励磁源とし,回転磁界を利用したカプセル型磁気アクチュエータが紹介され,生検や細胞診,薬剤散布の各動作が動画で解説された.動作方式の選定には臨床現場の意見や要望を取り入れた.臨床応用には励磁方法が課題であり,ロボットアームの先端に装着した磁石でアクチュエータを駆動する最近の取り組みが紹介された.

文責:岡田泰行(三菱電機)