第231回研究会

磁気が拓くイノベーション

日 時:
2021年3月30日 (火) 13:00~16:20

場 所:
オンライン開催(Webex)
参加者:
44名

 磁気に関する国内のベンチャー企業の5名の経営者・技術者の方々に,各社の技術とビジョンについて講演していただいた.聴講者の半数が企業の所属であり,磁気の新規応用技術・ビジネスへの高い関心がうかがわれ,活発な質疑応答がなされた.

  1. 「革新的スピントロニクス技術による消費電力と演算性能のジレンマの解決」
    ○遠藤哲郎1,2,本庄弘明1,西岡浩一1,小池洋紀1,馬 奕涛1,池田正二1 
    1東北大,2パワースピン)

     東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターならびにパワースピンにおける不揮発性磁気メモリ(MRAM)開発についてご講演いただいた.MRAMは従来想定されていたDRAM代替のメインメモリ用途のみならず,強磁性トンネル接合の積層構造や設計によって,不揮発性埋め込みメモリからキャッシュメモリにまで適応可能であることが示された.また,最近では自動運転用途などの画像認識のためのAIプロセッサの開発が進められていることが紹介された.

  2. 「スピントロニクスメモリを用いたin-memory computing」
    ○與田博明1,薬師寺 啓2,福島章雄2
    1Spin-Orbitoronics Technologies,2産総研)

     電圧による磁気異方性制御とスピン軌道トルク磁化反転を併用したVoltage-Control Spintronics Memory (VoCSM)の動作原理と,それを用いた論理演算を中心に解説がなされた.これにより,メモリ内でデータの保存と演算が可能となるため,IoTなどのエッジコンピューティングが超低消費電力で実現可能であることが示された.

  3. 「高磁束密度・低損失ナノ結晶軟磁性材料NANOMET®の応用事例」
    ○尾藤三津男(東北マグネットインスティテュート)

     東北大で開発されたナノ結晶軟磁性材料NANOMETの材料科学的基礎,製造技術からトランスやモータコアとしての応用事例について紹介された.NANOMETをモータコアとして用いた場合,従来の電磁鋼板と比べモータ効率が10%改善され,静粛性が改善されることが示された.また現状では,急冷薄帯からなるNENOMETは電磁鋼板に比べ高コストであるが,後工程も含めた製造工程の改善により,低コスト化が図られていることが示された.

  4. 「高感度・広ダイナミックレンジTMRセンサを用いた磁気センシング」
    ○藤原耕輔(スピンセンシングファクトリー)

     「いつでも・どこでも生体磁気計測」を目指し,トンネル磁気抵抗(TMR)素子の高感度化・低ノイズ化により,ピコテスラ級の磁界分解能をもつ磁気センサの実現と,それを用いた心臓磁界計測について紹介された.参照用センサを備えたグラジオメーターを用いることで,1 Hzにおいて4.7 pT/Hz1/2の分解能と地磁気程度の広いダイナミックレンジが達成され,磁気シールドルーム外で心臓磁界の計測が可能であることが示された.

  5. 「サブサーフェス磁気イメージング技術の開発 −蓄電池品質管理,インフラ検査への応用−」
    ○松田聖樹1,鈴木章吾1,○木村建次郎1,2,美馬勇輝1,木村憲明1 
    1神戸大,2Integral Geometry Science)

     リチウムイオン電池中のリーク電流など,デバイス・インフラの欠陥の非破壊検査に向けた磁気イメージング技術の理論的基礎から装置開発まで一貫した研究開発について紹介された.逆問題理論の進展により,磁気抵抗センサの膜厚と同程度であるnm級の空間分解能が実現できることが示された.また,電池検査など多チャンネルの磁気イメージング装置の実用化には,安価かつ特性ばらつきの少ない,ピコテスラ級分解能をもつ磁気センサの実現が必要であることが示された.

  6. 文責:中谷友也(物材機構)