第162回研究会報告

「ベクトル磁気特性技術が拓く次世代電磁力応用機器」

日時:2008年10月30日(木) 13:00 ~ 16:45
場所:機械振興会館
参加者:33名

 今世紀の課題である環境・エネルギー問題の解決のためには高効率・省エネルギー設計を実施することは極めて重要な技術ニーズとなっている。折しも大分大学榎園正人教授を中心とした一大プロジェクト:大分県地域結集型研究プログラム「次世代電磁力機器開発技術の構築」が科学技術振興機構(JST) に採択され、各界の注目を浴びている。7大学1高専9企業の研究者を結集し、モータの高効率高出力化、次期駆動伝達要素の高性能化、材質活用支援技術の構築をテーマとして本年から平成24年度まで研究が遂行される。本研究会ではプロジェクトの参加研究者にこれまでの成果の紹介と今後の新たな展望について講演していただいた。有限要素法などのコンピュータシミュレーション技術が発展普及している中においても、鉄損の評価が充分ではないとの指摘がなされ、応用機器の開発には材料の磁気特性についてのさらなる研究が必要であることが示された。講演概要は以下の通りである。

講演内容:

  1. 基調講演「ベクトル磁気特性による磁気特性解析」
    榎園正人 (大分大)

     二次元ベクトル磁気特性の数値モデリング並びに有限要素法との連成により行なったいくつかの電磁応用機器の磁気特性解析結果について述べている。ベクトル磁気特性を考慮した解析では磁界強度と磁束密度が数値解析結果として得られ、それにより各部の鉄損を直接評価することができた。
     

  2. 「電磁鋼板の非正弦波励磁特性」
    柳瀬俊次(岐阜大)

     JIS に規定されている電磁鋼板の磁気特性標準測定条件は磁束正弦波である。今後の電磁機器設計に重要となる非正弦波励磁下および偏磁下における電磁鋼板の鉄損特性及び鉄損推定法について説明している。
     

  3. 「二次元ベクトル磁気特性と最新の測定技術」
    戸高 孝(大分大)

     高磁束密度条件下での二次元ベクトル磁気特性の測定結果とその最新の測定法について述べた。特に、回転磁界鉄損に対するセンサコイルの直交度の影響とその補正法を示すとともに、回転磁束条件下での二次元磁気歪みの測定結果についても報告した。
     

  4. 「パルス強磁場発生技術」
    山田興治1, 下地広泰2, 榎園正人(1埼玉大、2大分大))

     30T に至るパルス磁界生成に関する知見が報告され、コイル材料、システム全体、安全対策などの経験が示された。結果的には安全第一の原則から最大 30 T、半値幅 1sec での磁場発生が報告された。
     

  5. 「モータの高効率化のための実機形状電磁鋼板の特性測定」
    岡茂八郎1, 中崎 修2, 金田嗣教2, 榎園正人2(1大分高専、2大分大)

     回転機内電磁鋼板の打ち抜き工程、積層工程、巻線挿入工程、フレーム圧入工程後の鉄損の評価をステータコア内挿励磁ヨークを用いて行なった結果、積層工程で鉄損が増加していることが報告された。
     

  6. 「局所二次元磁気特性測定装置の開発と数値解析技術への導入」
    長田尚一郎, 黒木聖也, 蛭川浩次(宮崎大)

     電磁鋼板の局所的な二次元磁気特性を測定する装置の開発について報告された。励磁とセンサが一体となったトランスデューサが開発の骨子となっており、コアの形状や B コイルの設置位置の差異による検討が示された。また二次元磁気特性データの設計援用のため、測定装置の開発と並行して行なわれている積分型 E&S (Enokizono and Soda)モデルの高速化手法についても報告された。
     

(文責:長田尚一郎(宮崎大))