第221回研究会

回転機用磁性材料の技術と応用

日 時:
2019年1月24日(木)13:00~16:40

場 所:
中央大学駿河台記念館
参加者:
38名

 近年、自動車の電動化などに伴い、EV/HEV用モータをはじめとした回転機が注目を集めている。今回の研究会では、高効率、小型化、高出力、高速回転などをキーワードとし、回転機用の磁性材料の高性能化技術や限界特性、モータの設計方針などについてご講演いただいた。多数の方にご来場いただき、活発な議論が交わされた。

  1. 「究極の低鉄損磁性材料(GO,アモルファス,ナノ結晶)で試作したモータコア損特性」
    ○藤﨑敬介(豊田工大)

     無方向性電磁鋼板(NO)、方向性電磁鋼板(GO)、アモルファス材、ナノ結晶材などの種々の低鉄損材料を用いてモータコアを試作した際の、コア損特性について報告がなされた。GO材によるモータコアでは、3000 rpmまでの領域でNO材を用いた場合に比べてコア損がやや小さくなることが示された。また、アモルファス材を用いた場合にもコア損は小さくなり、3000 rpmの高回転高周波励磁領域でのステータ鉄損はNO材の場合の1/7程度と見積もられた。さらに、ステータコアにナノ結晶材を用いた場合には、コア損の実測値と計算値とがよく一致していることに加え、ステータ鉄損がNO材によるモータに比べて1/20程度まで低減可能であることが示された。

  2. 「回転機用電磁鋼板の限界特性とその可能性」
    ○開道 力(北九州高専)

    回転機用電磁鋼板の高磁束密度化には、NO材では無秩序{100}化が必要であり、GO材では<100>{011}の圧延方向への<100>高配向化が必要であること、また、低鉄損化には、ヒステリシス損の低減のために、板厚、結晶サイズ、結晶粒界、析出物の最適化が必要となることが、計算式に基づいて詳細に解説された。理論計算からは、現行のNO材・GO材ともに、さらなる高特性化が可能であることが示唆された。今後の活用においては、限界特性に近い高性能な電磁鋼板では、モータ製造・加工時の応力などによる特性劣化が生じやすいため、劣化の少ない製造技術の開発が重要であること、またEVの駆動モータ用途では、機械的強度の高信頼性も求められることが示された。

  3. 「圧粉磁心を用いた薄型・高トルクなアキシャルギャップモータの開発」
    ○齋藤達哉1, 榎園勇太1, 中村悠一1, 上野友之1, 中村圭佑2, 綱田 錬2, 竹本真紹2
    1住友電工, 2北大)

     講演者らによってモータ用として開発された高磁束密度かつ低ロスである薄型の圧粉磁心と、安価ではあるが磁力の低いボンド磁石とを搭載したアキシャルギャップモータでは、従来の電磁鋼板とNd磁石からなるラジアルギャップモータに比べ、1.6倍の高トルク化が可能であることが示された。また、効率は軽負荷~高負荷の全運転領域においてラジアルギャップモータを上回り、最高で1%の効率改善が可能であることが示された。さらに、新たに開発された極低ロスの圧粉磁心をアキシャルギャップモータに適用した場合には、磁心材料の透磁率が低いにもかかわらず、上記アキシャルギャップモータと同等のトルクが得られ、最高で2%の効率改善を達成可能であることが報告された。

  4. 「ネオジム焼結磁石の開発動向」
    ○廣田晃一(信越化学工業)

     従来Nd磁石は高耐熱化のためにDy、Tbなどの重希土類(HR)が添加されていたが、モータ・発電機用途での需要拡大における課題として、価格低減・安定供給の観点から、HR量を低減もしくは使用しない磁石の開発要求が高まっていることが示された。これらの要求に対し、講演者らが取り組んできた(1)粒界拡散技術、(2)結晶粒微細化技術および(3)粒界改質技術の詳細が紹介された。(1)では微量のHRを粒界から磁石内に導入することで、HR使用量を4%低減しながらも残留磁束密度をほぼ維持しつつ大幅な保磁力の向上が可能であること、(2)ではDyを使用せずに1273~1432 kA/mの保磁力が得られること、(3)ではR6(Fe,M)14相を粒界に適切に分散させることで1432~1592 kA/mの保磁力を達成可能であることが報告された。

  5. 「高ケイ素鋼板を適用したSRモータの研究」
    ○千葉 明1, 清田恭平21東工大, 2富山大)

     スイッチトリラクタンス(SR)モータの原理とともに、講演者らが取り組んできた同モータにおける研究開発の詳細が紹介された。希土類磁石を用いないSRモータにおいても、市販のハイブリッド車に搭載されている希土類磁石を用いた駆動モータ(PMモータ)と等しい外形で等しいトルク密度と最高効率が達成された。さらに、新たに設計試作した高速回転駆動のSRモータでは、最大トルク時の電流実効値はPMモータの170 Aよりも低い138 Aに抑えられ、軸出力はPMモータ(60 W)よりも大きい100 Wが得られた。SRモータの高性能化においては、高ケイ素鋼板の適用、低い飽和磁束密度を補うモータデザイン、高速域で出力を向上可能な電流連続制御が重要であることが示された。

文責:堀川高志(愛知製鋼)