日本磁気学会第195回研究会 / 第29回強磁場応用専門研究会

「磁場が明らかにする科学現象と材料創製」

日時:
2014年3月17日(月)13:00 ~ 17:45
場所:
早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構(ASMeW)
参加者:
18名

 第195回研究会では,化学分野を主軸にした研究者らによる磁気を利用した新しい磁気材料開発と解析に関わる6件の講演タイトルを提供した.他研究領域の研究者の理解のために,丁寧な研究背景の説明と伴に,反磁性・弱磁性物質の磁気配向や無機物のキラリティ発生に関わる最新の講演が行われた.質疑においては,他材料への展開について,活発な議論が行われた.

  1. 「磁場,重力場,電場がつくるキラリティ」
    ○青柿良一 (職能開発大,物材機構)

    茂木によって見出された現象:垂直磁場中での電気化学結晶成長(電析)により作った銅電極を用いてアミノ酸の酸化反応を行ったところ,電極製作時の磁場方向に依存してD体とL体の一方に対する反応活性が向上する現象について,磁場と回転場(重力場)が存在する電解系での銅電析(電場)において生じるキラルな微小渦流と,それが電極表面に作り出すキラルならせん転位の形成過程から解説された.地球空間,宇宙空間と同じように,磁場・回転系における電析においても,必然的にL 活性優勢な触媒が生み出されることが述べられた.

  2. 「異方性媒質のキラル光学/磁気光学の精密測定」
    ○朝日 透 (早大)

    講演者らが開発した系統誤差の扱いを適切に考慮した直線二色性,円複屈折,円二色性を同時測定できるG-HAUP(Generalized High Accuracy Universal Polarimeter;一般型高精度万能旋光計)を用いた,無機結晶に包接された色素分子のキラリティ誘発の測定結果が紹介された.カチオン性アゾペンゼン誘導体(A Z+)を色素分子として選び,ac 面とbc 面を鏡映面に持つC2v に属するK4Nb60O17 結晶(KNO ) に包接させたハイブリッド結晶でのキラルリティの誘発は,AZ+分子によるものであり,AZ+分子がKNO 結晶の層間でねじれた分子構造を形成し,そのねじれの方向は同じであることに起因していることが説明された.また,この色素分子はアゾベンゼンにみられるcis-trans 光異性化反応を示さなかったことは,KNO 結晶の包接環境下におかれたAZ+分子がrigid な分子構造を有していることが述べられた.

  3. 「高磁気力を利用した高品位タンパク質結晶生成システムの開発」
    ○廣田憲之(物材機構)

    JSTプロジェクト支援下,講演者らが開発を進めている高効率で高品位なタンパク質結晶生成システムについて紹介された.タンパク質溶液に作用する重力と磁気力を競合させ,溶液にとって微小重力環境を作り出す超電導磁石内に,①室温ボアの限られた空間を有効活用するための積層可能な24の結晶化ウェルの開発設置,②それら個々のウェル内でのタンパク質結晶成長の可視化装置による観測が,タンパク質結晶生成の高効率・高品位化に有効であることが述べられた.また本システムでは,生成したタンパク質結晶が沈降しない条件,微結晶が生成した後,その周囲の溶液の濃度勾配による対流を抑制する条件などの見極めにも有効で有り,磁場利用研究の立場からの,本システムのタンパク質工学進展への寄与が期待された.

  4. 「磁場利用による配向制御と構造解析」
    ○木村史子(京大)

    磁気異方性を有する弱磁性体,例えば結晶や繊維などの微粒子に磁場を印加させることによる,材料の高性能化が紹介された.磁気異方性を有する微粒子の静磁場配向,回転磁場配向,及び3次元配向の制御方法それぞれについて,理論と実験の両面から説明が行われ,更に,3次元配向試料(擬単結晶)である固化擬単結晶(3D-MOMA)及び懸濁擬単結晶(3D-MOMS)を用いた結晶構造解析について述べられた.特に,3 次元配向については,磁化率テンソルの3つの主値の違いにより,印加する磁場を最適化してなければ,配向揺らぎの小さい3 次元配向体即ち擬単結晶が得られないことが示された.更に,その擬単結晶の構造解析への応用を擬単結晶の懸濁媒体を固めた3D-MOMA で示すと共に懸濁媒体を固めない3D-MOMSのin-situ X線回折測定による結晶構造解析の可能性が示された.

  5. 「磁場で発現する炭素物質の特異構造と機能」
    ○浜崎亜富(信州大)

    カーボンナノチューブ(CNTs) への磁場効果について講演された.溶媒に分散させた単層(SW) CNTs が磁場中で配向することが知られているが,CNTs の成長時に磁場を印加した例はこれまでに報告は無かった.その妨げの一つが,装置製作の問題であり,強磁場中での石炭ピッチの加熱処理やCNTs の合成には,超電導磁石で1000 K 程度の高温を発生させる必要があった.講演者らは,自力で部品を取捨選択し,安価で装置を構築し,石炭ピッチからの活性炭合成と,アルコール等の低分子量炭化水素からのSWCNTs および多層(MW)CNTs の合成過程への磁場効果を検討した.その結果,炭素ピッチからの炭素物質合成では,高温で液相を経由する時は磁場効果が期待できることが示された.一方,ゼロからの炭素物質の組み上げに対しては,特に構成分子数の多いMWCNTS では成長段階での磁気配向が起こり,構成分子数の少ないSWCNTS では磁気配向は起こらないものの,物質構造に影響を与える結果が報告され,新たなCNTs構造制御法としての磁場の有効性が期待された.

  6. 「磁場を利用した高分子の高次構造制御」
    ○山登正文(首都大)

    高分子材料の物性制御には高次構造制御が重要である.高次構造制御法の一つとして,高分子自体が有しない特徴を付与するための機能性フイラーと高分子との複合化による高次構造制御の研究が紹介された.結晶性高分子のポリプロピレン(PP)にカーボン材料である気相成長炭素繊維(VGCF)の添加を行い,180℃の熱処理時に10Tの磁場印加することで,VGCF上でのPPの結晶成長に異方性を与え,ナノハイブリッドシシカバブと呼ばれる高次構造を取ることが予想された.またブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造の磁性イオン液体の選択的ドープにより磁場配向させた試みについても報告された.非晶・非晶ジブロック共重合体の一成分に磁性イオン液体を選択的に添加し,ミクロ相分離構造の界面での磁化率差に誘起された磁場配向に成功したことが述べられた.

文責:杉山敦史(早大)