第193回研究会/第47回スピンエレクトロニクス専門研究会報告

「スピンカロリトロニクス -磁気と熱の織り成す協調現象-」

日時:平成25年12月17日(火) 13:00~16:40
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:33名

本研究会は、近年注目を集めているスピンと熱の相互作用に関する「スピンカロリトロニクス」分野に関して、第一線でご活躍の先生方に理論、基礎から応用までを網羅するようご講演いただいた。

  1. 「スピン協調現象による巨視的熱変化と磁気冷凍」
    ○藤田麻哉,狩野みか,松波大地 (東北大)

    スピン協調現象による巨視的熱変化の例として、強磁性-常磁性1次相転移についての解説があった。相転移現象特有のキネティクスが動的挙動に影響することが示された。併せて、常磁性スピン揺らぎと熱量効果との関係が紹介された。

  2. 「強磁性金属薄膜における熱磁気効果」
    ○水口将輝,長谷川 浩太,桜庭裕弥,内田健一,齋藤英治,窪田崇秀,水上成美,宮﨑照宣,高梨弘毅 (東北大)

    異常ネルンスト効果を用いた新しい熱電変換素子の開発を目指し、L10型FePt規則合金薄膜の熱磁気効果を詳細に調べた。この薄膜を用いてサーモパイル構造の熱電素子を試作し、大幅な異常ネルンスト電圧の増大に成功したことが報告された。

  3. 「Voltage tuning of thermal spin current in ferromagnetic tunnel contacts to semiconductors」
    ○K. R. Jeon,B. C. Min,A. Spiesser,齋藤秀和,湯浅新治,R. Jansen (産総研)

     金属強磁性/MgOトンネル接合をSi上に作製し、強磁性とSi間に温度勾配を設けることによりSi中へスピン偏極したキャリアが生成されることが説明された(ゼーベック・スピントンネリング効果)。また、同時に強磁性/Si間に電界を印加することにより、熱により生成したスピン蓄積信号が変調可能であることが示された。

  4. 「熱とスピン流」 
    ○安立裕人1,2,安 東秀2,3,内田健一3,4,山口和也2,3,針井一哉1,2,大江 純一郎2,5,梶原瑛祐2,3,齋藤英治1,2,3,前川禎通1,2
    (1原子力機構,2JST-CREST,3東北大,4JSTさきがけ,5東邦大)

    熱とスピン流のかかわりに関する研究の最近の進展について概観した後、近年スピントロニクスにおいてスピン波スピン流の役割が大きな注目を集めている事から、特に熱流とスピン波スピン流との交差効果について理論面からの説明がなされた。

  5. 「スピン軌道相互作用する電子系における電荷スピン熱輸送係数の理論」
    ○小野田 繁樹(理研)

    数十年に渡って論争の的であった異常ホール効果について、理論・実験両側面からどのように統一的に理解されるに至ったか紹介された。また、既に広く認知されている「スピン流」について、電荷とは異なり保存量ではないことから、理論的な取扱いの際には留意すべきことが強調された。

文責:齋藤秀和(産総研)