第185回研究会報告

「日本磁気学会と元素戦略」

日時:2012年7月19日(木)12:30-16:45
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:32名

 日本における産業は希少元素に強く依存しており、かつ、そのほとんどは輸入により供給されている。近年、世界的な希少元素の需要増加と資源国の輸出管理政策の影響により、深刻な希少元素の供給不足に直面しつつある。このような状況下において、文部科学省では本年度より、新・元素戦略プロジェクトを推進しており、また、材料研究に強く係る学会に連携を呼びかけている。その連携の一環として、本研究会の協賛6学協会では、春の講演大会において元素戦略シンポジウムを開催したが、本学会では、春期に学術講演会を開催しないため、今回、研究会として開催した。近年、企業からの参加者数が少ないことが問題になっているが、今回は、企業から11名、全体の約1/3の参加があった。質疑応答も活発に行われ、情報交換等も含めて、有意義な研究会であった。

講演内容:

  1. 「文部科学省における元素戦略プロジェクトについて」
    本間穂高(文部科学省)

     まず、稀少元素に関する情勢についての説明があり、その後、本年度より開始した新しい元素戦略プロジェクト (研究拠点形成型)についての説明があった。磁石材料、触媒・電池材料、電子材料、構造材料の4分野について、スパコン「京」や SPring-8 などを駆使し、 基礎学理の確立から革新材料の実用化までを一貫して行うことの重要性について、詳細な説明があった。

  2. 「磁性材料における元素戦略の役目」
    杉本 諭(東北大)

     稀少元素を単純に価格の面から考えるのではなく、その使用量やリスクを含めた総合的な観点から捉え、さらに、明確な理念をもって元素戦略を推進していくことが重要であるとの報告であった。また、過去の磁性材料の開発においてどのような問題があったか、その結果、代替材料がどのように戦略的に開発されてきたかに関しての説明があった。今後、磁性材料として要求される物性を実現するための戦略に関して、問題提起があった。

  3. 「Nd-Fe-B磁石におけるDy量低減技術開発」
    西嶋茂宏 (阪大)

    Nd-Fe-B 系磁石は、近年 HEV 駆動用モータ等に利用されている。この磁石には、実用性の観点から、Dyなどのレアメタルが保磁力改善のために添加されている。このDyは地域偏在性が強く、元素戦略的には、省Dy技術が強く要求されている。本講演では本系磁石における最近の省Dy技術について紹介があった。

  4. 「貴金属フリー垂直磁気異方性材料「L10型FeNi」」
    ○水口将輝、小嶋隆幸、荻原美沙子、高梨弘毅(東北大)

    単原子交互積層法により作製したL10型FeNi規則合金薄膜に関して詳細な報告が行われた。作製条件の最適化、種々のバッファ層の使用によりL10型FeNi規則合金薄膜を作製することが可能になった。その磁気特性を調べた結果、7.0×106 erg/ccの垂直磁気異方性を有することが分かった。この大きな垂直磁気異方性は、L10型構造に起因するものであることが確認された。

  5. 「相図予測に基づくマテリアルデザイン-ホウ素系半導体による超伝導物質探索への応用-」
    白井光雲(阪大)

    半導体であるホウ素結晶を使った超伝導物質探索を例に、マテリアルデザインの手法について説明があった。物質探索において相図は極めて重要であり、微視的な第一原理計算と巨視的熱力学的考察の組み合わせにより行うマテリアルデザインにおいても、相図の有効性は非常に大きいことが示された。高圧下のホウ素およびLiドープによるホウ素結晶で超伝導を探索できた事例により、相図予測の有効性が示された。

  6. 「Fe基遍歴電子メタ磁性化合物を利用した機能開拓と元素戦略」
    ○藤田麻哉、矢子ひとみ、狩野みか(東北大)

    磁性金属の中でも安価で供給が安定した元素であるFeを用いた化合物において、相転移に付随する物性変化を機能性として開発する例が示された。併せて、相転移発現の機構に注目した新規材料の探索方針についての説明があった。

  7. 「レアメタルフリー酸化物反強磁性体を用いた垂直交換バイアス薄膜の開発」
    ○白土 優1、中谷亮一1、三俣千春2、中村哲也3、木下豊彦3、鈴木基寛3、鳴海康雄2、野尻浩之2(1阪大、2東北大、3JASRI)

    磁性金属の中でも安価で供給が安定した元素であるFeを用いた化合物において、相転移に付随する物性変化を機能性として開発する例が示された。併せて、相転移発現の機構に注目した新規材料の探索方針についての説明があった。

(文責:中谷亮一(阪大))