第183回研究会報告 第39回スピンエレクトロニクス専門研究会報告

「磁化のダイナミクスと磁気緩和の物理」

日時:2012年3月22日(木)  13:00~17:15
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:49名

本研究会では、磁化のダイナミクスとそれを特徴付ける緩和現象について、本分野の第一人者の方々により最先端の研究が紹介された。スピントロニクス素子開発において、磁化反転の制御は重要な技術であり、そのために磁化の動的挙動やその背後にあるスピンの緩和現象をよく理解することは不可欠である。各分野からの注目を反映して、大変多くの参加者が磁気ダイナミクスの様々な側面について白熱した議論を行った。

講演内容:

  1. 「高垂直磁気異方性薄膜材料の磁化才差ダイナミクスと緩和」
    水上成美 宮崎照宣(東北大)

    通常のFMRでは測定が困難な、さまざまな垂直磁化薄膜のダンピング定数をパルスレーザーを用いた時間分解磁気光学カー効果で調べた。Co系多層膜や超薄膜では、垂直磁気異方性が大きいほどダンピング定数が大きい傾向にあることが示唆された。

  2. 「ナノ磁性体の強磁性共鳴」
    山口明啓,福島章雄,久保田均,湯浅新治(産総研)

    微小磁性体では形状によって規定されたスピン波が励起されると考えられる。準全方位磁場印加機構測定システムの開発と、面直方向に静外部磁場を印加した際の磁気トンネル接合素子のスピントルクダイオード効果が紹介された。その印加磁場角度依存性から、磁化自由層に量子化されたスピン波モードが励起されていることが明らかにされた。

  3. 「ギルバート緩和に関する理論と計算」
    佐久間 昭正(東北大)

    トルク相関理論を基に、遷移金属合金のギルバート緩和が微視的立場からどのように理解されるか、また電子状態とギルバート緩和定数αの関連性などが概説された。さらに、αを第一原理計算から評価することで、組成比や規則度などの種々の因子によるαへの影響が定量的に議論された。

  4. 「低磁気緩和を有するハーフメタルホイスラー合金」
    大兼幹彦(東北大)

    ハーフメタルになることが期待される、Co2MnAlxSi1-xおよびCo2FexMn1-xSiホイスラー合金の磁気緩和を系統的に調べた結果が紹介された。磁気緩和の組成依存性は、ホイスラー合金のフェルミ面の状態密度に深く関わっており、Co2FexMn1-xSiの x = 0.4 組成近傍で、非常に小さい磁気緩和定数α = 0.003 が得られたことが示された。

  5. 「非磁性金属細線中のスピン緩和」
    福間康裕1), 井土 宏2), 大谷義近1,2) (1)理研, 2)東大)

    非局所スピン注入実験を用いた、非磁性金属中のスピン蓄積及びスピン緩和に関する研究結果が紹介された。ハンル効果、あるいは界面にトンネル障壁層を挿入した実験及びその解析方法と、それから得られたスピン緩和に関する新たな知見などが示された。

  6. 「強磁性薄膜パターンに閉じ込められた磁気渦対の共振スペクトルを用いたスピンダンピング機構の解析」
    能崎幸雄1), 畑 拓志1), 児玉 基1), 後藤 穣1), 山口明啓2)(1)慶大, 2)産総研)

    楕円強磁性薄膜に閉じ込めた磁気渦対について、4 種類の共振モードの存在が解析的に示された。さらに、渦中心磁化の相対方向、および共振の誘引方法により前記モードを選択励起することにより、スピントルクが磁化に作用するβ項を測定できることが明らかにされた。

(文責: 長浜太郎 (北大))