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日本応用磁気学会応用磁気セミナー報告
「スピン依存伝導現象の基礎と応用」
 
日時: 1998年12月4日(金)
場所: 商工会館
参加者: 32名

  磁性多層膜,スピンバルブ膜は,光磁気記録材料やハードディスクのヘッド材料への応用という観点から盛んに研究開発が行われている。これらの多層膜において,所望の機能を安定に引き出すためには,界面構造などの膜構造を詳細に解析する手段の導入が研究開発や製造にとって不可欠なものとなっている。本セミナーでは,X線や電子線を利用した多層膜の解析手法を初学者向けに分かりやすく解説することを目的として,下記の4件の講議を行った。

1. X線・電子線を用いた多層膜の構造解析の基礎 中山 則昭(山口大・工)
2. X線反射率法による薄膜積層体の層構造解析 宇佐美 勝久(日立・日立研)
3. 蛍光X線による金属多層膜の構造解析 原 嘉昭(富士通研究所)
4. エネルギーフィルターTEMによる磁性材料の元素分布像観察 木本 浩司(日立・日立研)


  中山先生は,まずX線,電子線およびイオンビームを用いたさまざまな薄膜の解析手法の原理と特徴を概説するとともにこれらの実験例を示した。この後,X線回折法による薄膜の構造解析に的を絞り,膜が一層のみのときの散乱振幅の関係式から出発して,多層化したときの散乱振幅を求める方法まで大変分かりやすい説明があった。
  宇佐見氏は,X線反射率法による薄膜積層体の層構造解析について実験手法と解析方法を解説するとともにスピンバルブ膜に応用した結果について詳しい報告を行った。薄膜積層体を構成するそれぞれの層の膜厚やラフネスを分離して求めるためには,適切なX線波長を選択することが重要であり,スピンバルブ膜の場合にはCoKβ線の利用が有効であることが示された。
  原氏は,蛍光X線測定装置を利用して金属多層膜の各層の層厚を X線反射率法より迅速に測定する手法について解説した。従来,蛍光X線では,多層膜の定量的な測定は困難とされてきた。しかし,層構造がシンプルな多層膜試料を何種類か作製し,これをあらかじめX線反射率法によって層構造を解析して蛍光X線測定の標準試料とすれば,実用上,十分な精度でスピンバルブ膜を構成する各層の層厚を蛍光X線によって評価できることが示された。
  木本氏は,電子エネルギー損失分光法の一種であるエネルギーフィルター透過電子顕微鏡(TEM)法について解説を行った後,磁性多層膜の断面観察において元素分布像が得られることを報告した。従来の手法では検出が困難であった多層膜界面の原子の拡散の様子などが示された。また,走査透過型電子顕微鏡にエネルギー分散形X線分析(EDX)を組み合わせた手法による元素分布像観察の結果も合わせて報告された。
  セミナーでは,大学院生を中心に学生が15名,企業等から17名が熱心に聴講し,活発な質疑があった。セミナー後のアンケートでは,講義の内容におおむね満足いただいたことが分かったが,もう少し時間をかけて詳しく話してほしい,解析した膜構造とGMR特性の関連について解説してほしかった等の意見も寄せられた。              

(名大・岩田 聡)