第35回光スピニクス専門研究会報告

「超高速の磁気光学応答」


日 時: 2000年10月17日(火) 13:30 - 17:00
場 所: 東工大(大岡山) 百年記念館 第一会議室
参加者: 15名

講演題目:

1)「遷移金属酸化物と超高速光制御」 五神 真(東大)
2)「化合物半導体の高速磁気光学応答」 秋本良一(電総研)
3)「磁区応答高速度観察装置の構築と MAMMOS 拡大層の磁区収縮速度」 伊藤彰義(日大)

 情報通信・記憶の分野では大容量、高速がキーワードとなっている。そこで、今回は 光によるスピンの高速制御とスピン応答の観測に関する話題をとりあげた。
 五神氏の講演では、モット絶縁体のようにバンド・ギャップが電子相関から生じて いる系の、ポンプ - プローブ法による光励起と緩和の研究が論じられた。このよう な強相関系では、GaAs などふつうの半導体と異なり励起がバンド構造自体を変える ので、特異な非線形応答が期待できる。五神氏らはSrCu 系酸化物のなかでSr2CuO3, SrCuO2 など1次元キャリア鎖を有する材料に見られる200fs以下の光吸収の速い応 答について、その2光子励起スペクトルが、線形の吸収スペクトルと一致することを 見出しポンプ光とプローブ光による2光子励起と解釈した。この現象は室温で生じ、 非線形感受率が大きいことから、光スイッチ材料としても有望であることが示された。 また、スピンを有し 450 K の Tc をもつ Sr2FeMoO6 についても磁気光学効果を プローブとした高速応答の研究が進められ、緩和の温度依存測定から3次元性による と示唆された。
 秋本氏の講演では、光入力の光変調器などへの応用可能性が期待される、半導体の 磁気光学応答が紹介された。 GaAs 中に円偏光によって励起されたキャリアのスピン 応答時間は 数 fs ときわめて短いのに対し、キャリア寿命による緩和が数 ns と 長いことから光学応答は遅い緩和成分を含み、このままでは 1 GHz を超える繰返し スイッチングには適さない。この困難を解消するために、キャリア再結合を速める材 料や、2つ以上の要素でプッシュプル動作をさせる素子構造の提案が紹介された。 希薄磁性半導体量子井戸構造の試料では井戸幅によってライト・ホール、ヘビー・ ホールの閉じこめ状態が変化することから、再結合緩和時間を制御できることが論じ られた。また、時間分解磁気光学測定により、Mnの局在モーメントのラーモア歳差 運動が、円偏光励起で制御できることを見出し、この現象が光励起したキャリア群の スピンとの交換相互作用によって 0.5T 相当もの実効的な磁場を生じていることに よるという最近の進展も紹介された。光による磁化制御の一法として期待される。
 伊藤氏の講演では、200 ps の電子シャッターをもつ CCD を偏光顕微鏡に組合せ、 ストロボ法によって磁区の高速な変化を観察する手法の到達点が紹介された。 MAMMOS は 数十 nm 程度の微細な記録ビットを有する記録層の磁区を、それに積層された 読み出し層の磁区として転写した後、磁場印加により400 nm の光スポット径程度 まで拡大して光磁気読み出しをおこなう記録再生方式である。100 Mbit/s の速度を 実現するためには、磁区の拡大・縮小時の磁壁移動速度は 40 m/s 以上であることが 要求される。高速磁区観察装置を用いて実際に観測された速度は 80 m/s (110 Oe 印加時)で、これは Walker 理論から予測される値を超えており、高速再生の実験では MAMMOSによる100Mbpsの再生波形が示された。この研究は光磁気記録で100 Gbit/in2 の密度と100Mbit/s 以上の転送速度の実現をめざす壮大なプロジェクトの一角を占める もので、定量的な見積りに基づく設計、試作・改良、観察による検証との緊密な連携 によって、困難な目標が一歩一歩攻略される現場の息吹きを伝えるものであった。
 このような興味深い研究会にもかかわらず参加者が少なかったのは、残念である。   今後、広報活動の強化が必要であると痛感した。
(ソニー 岩崎 洋)