第33回光スピニクス専門研究会報告

「光で造る室温磁性体」


日 時: 2000年5月16日(火)13:30-17:00
場 所: 東工大(大岡山) 百年記念館 第一会議室
参加者: 30名

講演題目:

1)「新材料におけるキャリヤ誘起磁性の可能性」 吉田 博(阪大)
2)「半導体における光キャリヤ誘起磁性」 宗片比呂夫(東工大)
3)「金属錯体における光誘起磁性」 橋本和仁(東大)

 光学遷移や電子注入などの物理過程が、磁化率や磁化の増減、あるいは磁性 相転移に結びつく協同現象を生じるという研究が、磁性イオンを含む半導体や 有機構造体を舞台に展開されている。この研究会はその先端分野の現状を議論 し、基礎と応用に関する夢を語りたいという趣旨で、3名の講師に講演をして いただいた。
 吉田氏は第1原理理論計算に基づき、ドナーとアクセプタの適切 な共添加により高濃度p型を作れること、低抵抗p型Zn1-xMnxO系においては、 Mn[2+]/Mn[3+] double exchangeのメカニズムによる室温強磁性の可能性があ ることを述べ、ZnO:Mnベースのスピン注入デバイスの提案を行った。また、 ZnO:Cr-Mn、ZnO:Mn-Fe系ではキャリア注入による常磁性・強磁性転移の可能性 があることなどを指摘した。
 宗片氏はIII-V族半導体ヘテロ構造InMnAs/GaAlSb においてキャリア注入による磁性の変化を調べた。しかし、注入スピンが界面 の電子状態に捉えられ大きな磁性変化は実現しなかった。一方、InMnAs/GaSb ヘテロ構造においては低温ではあるが光誘起による磁化変化が明確に観測され た。さらにMBEで交互堆積したGaAs-Fe複合構造において、FeAsにコートされた Feクラスタ間の光誘起相互作用によると思われる光誘起磁化変化を室温で観測 した。
 橋本氏は、はじめにプルシアンブルー錯体の分子設計に基づき室温強磁 性が生じることを紹介した後、Fe-CoプルシアンブルーにおいてFe/Co比率を適 当に制御するとパルスレーザ光を用いて高スピン・低スピン変化による磁性変 化を誘起できることを明らかにした。また、W-Mn, W-Coなどの8配位分子構造 を重合して結晶を作製すると、Tc(54K)より高い200K付近で光誘起の高スピン・ 低スピン変化を起こせることを見出している。今後室温での光誘起磁化をめざ して開発をすすめる。
 いずれも最新の研究成果を踏まえた興味深い内容で、各講師とも難しい内容 を非常に分かりやすく説明されたので、参加者に大きな感銘を与えた。
(農工大・佐藤)