第31回光スピニクス専門研究会報告

「円偏光とスピン注入」


日 時: 2000年2月15日(火) 14:00 - 17:00
場 所: 東工大(大岡山) 百年記念館 第一会議室
参加者: 18名

講演題目:

1)「GaAs/GaAsP/Si中の光励起スピン偏極電子流:ミュオンによる観測」 鳥養映子(山梨大工)
2)「局所磁性のSTMによる局所プローブ測定:トンネル発光」 西谷龍介(九工大)

 鳥養氏の講演は、ミュオン・スピン共鳴(μ+SR)を半導体中のスピン計測に適 用した実験結果である。ミュオン(μ+)は 電子と同じ電荷とスピンを持ち質量が 200倍の素粒子で、高エネルギー加速器によって100 % 偏極したビームが得られ る。試料固体中に打ち込まれて陽電子に崩壊するまでの寿命 2.2 μs の間、試料中 に局在したプローブとして歳差運動をする。 μ+ のスピン方向は、崩壊時に放出 される陽電子の分布方向を前後に置いた2つのカウンタ出力の差から検出する。  対象とした試料は、200μm厚のシリコン基板上に厚さ 2μmの GaAsP バッファ 層を介して 0.14 μm の歪み格子 p-GaAs 層を成長した GaAs/GaAsP/Si 構造で ある。この Si 基板側から μ+ が打ち込まれ、主に Si 中に停止したプローブとな る。 最表面の GaAs を円偏光パルス励起すると偏極キャリアが発生するが、これを試料 厚み方向の印加電場によって基板側へドリフトさせ、Si 中に局在した μ+ との相 互作用を見た。観測された μ+ の偏極度は GaAs 側から流れ込むスピンの正負に よって異なり、GaAs 層から GaAsP 層をこえて Si 基板内にまでスピンが輸送され ることが確認された。
 近年半導体中へのスピン注入が関心を集めているが、鳥養氏らの実験結果は、 身近な電子材料である Si 中におけるスピン偏極を直接検出したもので、スピンエ レクトロニクスの可能性を示唆するものとして、今後の発展が期待される。
 西谷氏の講演は、走査トンネル顕微鏡(STM)からの発光を利用した物性評価に 関するものである。STM の探針と試料間を移動する電子は、非弾性トンネルなどの 機構でエネルギーを光に変え、その発光のスペクトルはトンネルする局所の物性を 反映する。装置の一連の改良の過程を通じて得られた発光スペクトルのマッピング や、金属粒サイズと発光スペクトルの対応など、豊富なデータが示された。最近で は集光立体角の大きな楕円鏡面や明るい透過型分光器を組合せて、発光分析用 STM 装置の究極的な最適化に近づいている。
 磁化をもつ試料からは円偏光の発光が期待されるので、STM の高い分解能とス ペクトル情報とを兼ね備えた磁性の評価手法となる。これの実用化に向けた最新の 試みも発表された。今のところ明確なスピンマップは得られていないが、試料の磁 化方法の改良などにより磁気像が得られるものと予想される。STM からの発光分析 は多結晶材料の結晶粒や粒界など複雑な材料組織から特定箇所を選んだ物性測定を 可能にする強力な手法なので、実用材料評価技術として多方面での活躍が期待され る。
 快適な記念館で開催された今回は、評価技術開発時のスタンダードに適した 試料提供の申し出など、材料側と評価側の協力を深める懇談もすすんだ。
(担当:農工大・佐藤、ソニー・岩崎)