第13回光スピニクス専門研究会

スピン・エレクトロニクスデバイスを目指して
−半導体と金属:二つのアプローチ−

日時: 1997年4月22日(火) 2時〜5時
場所: 東京工業大学 大岡山南三号館二階電気情報系会議室
参加者: 29名

 半導体と強磁性金属からの二つの異なるアプローチによるスピン制御の試みの現状に関して、下記2件の発表があった。
1)「InGaAs/InAlAsヘテロ構造におけるスピン軌道相互作用の制御」 新田淳作 (NTT基礎研)
2)「強磁性/絶縁体/強磁性接合におけるスピン依存トンネリング」 佐藤雅重, 菊地英幸, 小林和雄 (富士通研究所)

 NTT基礎研の新田氏からは、2次元電子ガス(2DEG)にゲート電圧を印可することにより、スピンの回転を制御しようという大変面白い試みについて、原理と実験結果の報告があった。電子の運動面と垂直な電界勾配をゲートから受けると、スピン軌道相互作用が生じ、2DEGのスピンはプリセッション運動をする。この効果は、バンドギャプが小さく有効質量が小さい半導体中で大きい。また、電子よる遮蔽効果があること等から、電子濃度が小さい程効果は顕著になるとのことであった。新田氏はInGaAs/InAlAsヘテロ構造の2DEGのDe Haas-van Alphen振動(磁気抵抗のランダウ準位の生成に起因する振動)のうなりから、電子状態が分裂しており、その分裂幅がゲート電圧で制御できることを示された。分裂幅は例えば6meV程度であった。この構造にスピンインジェクターとスピンフィルターを組み合わせることにより、スピントランジスタになる等の技術的に興味ある将来について活発な議論が行われた。原理が相対論的で難しい内容であったが、多数の質問と討論により理解を深めることが出た。
 富士通研究所の佐藤雅重氏からは、ポストGMRとの期待から、最近、急激に研究が進展している強磁性/絶縁体/強磁性接合におけるスピン依存トンネリングについての報告があった。佐藤氏は、メタルマスクを使って作った100ミクロン程度の大きさの接合で30%近い磁気抵抗効果を歩留まり良く再現性良く得ていた。接合界面はCo層で、絶縁層はAlの自然酸化膜である。低磁場の動作のためにFeNi層と反強磁性のピン止め層をつけている。安定動作をする素子の抵抗は数百オームであり、これより抵抗が低い場合は、ピンホールの影響などで不安定になったり、面内抵抗の影響で真のMRの測定が困難になるとのことであった。安定な素子は1.2nm以上のAl層を長時間(例えば100時間以上)自然酸化することにより得られるとのことであった。さらにアニール実験では摂氏300度程度のアニールによりMR比が大きくなる傾向があることを示した。これは、素子作製時にCoの表面、Alの表面が外気に触れて何らかの物質が吸着しているためではないかとのことだった。歩留まりが非常に悪いと考えられていたトンネル素子が比較的簡単に安定に作製できるという話を聞き、目から鱗が落ちるように感じた。
今後、この分野の進展が期待される。
(融合研・電総研 鈴木義茂)