第7回光スピニクス専門研究会開催報告

「有機強磁性およびフラーレンの最近の話題」

日時: 1996年4月23日(火) 14:00〜17:00
場所: 東工大 フェライト会議室
参加者: 23名

講演題目:

1) 有機結晶の磁性---磁性発現条件と最近の研究 田村雅史(東邦大・理・物理)
2) 熱処理炭素の有機強磁性 齊藤敏明(東邦大・理・物理)
3) フラーレンアニオンラジカル塩結晶の合成と性質」 森山廣思(東邦大・理・化学)

 標記専門研究会が,4月 23日(火)14時-17時東工大(大岡山)で開催された.参加者は23名であった.現在、いくつかの有機物結晶、フラーレン等において低温で強磁性が見いだされている.また、熱処理した炭素(グラファイト化途上炭素)においても再現性の問題があるものの、室温において強磁性的振る舞いが観測されている.以前、東大物性研の木下氏と出光中研の溝上氏に同様の話題で講演をいただいたことがある.今回はこれら有機物における磁性について現状がどうなっているのか、フラーレンの話題も新たに加え3件の講演が行われた.
 はじめに、田村雅史氏(東邦大)は「有機結晶の磁性---磁性発現条件と最近の研究」というタイトルで、s,p電子だけからなる有機物質の物性を支配する最も重要な要因である共有結合性を、量子スピン系の挙動として捉えることにより、有機物質における磁性発現条件を議論した。最初の有機強磁性体β-パラニトロフェニルニトロニルニトロキシド(p-NPNN)(Tc=0.6K)をはじめとして、強磁性カップリングを示す誘導体(p-フルオロ体、p-シアノ体など)や、TEMPOラジカル系(Tc=0.2-0.4 K)などが、基本的にこの条件に当てはまることを指摘した。従来型の遷移金属磁性体との比較や電気伝導性との関連についても言及した。
 続いて、齊藤(東邦大)は熱処理炭素の例としてアダマンタンを出発物質とするグラファイト化途上炭素について述べた.熱処理温度が1000度付近の温度ではグラファイト化しつつある領域が乱れて配列したアモルファス的な構造を持っている.また、金属的な電気伝導を持ち、不対スピンも多い.この領域で作製したサンプルでは室温でも超常磁性的や強磁性的振る舞いが多く見られることを示した.しかし、再現性についてはまだまだ問題が多い.
 ところで、C60の発見から10年あまり、またアルカリ金属のドープによる超伝導性の発現や[TDAE]C60の強磁性的な物性が興味をもたれてからほぼ5年が経過した。休憩をはさみ、森山広思氏(東邦大)には、フラーレンに関する最近の研究動向のビデオによるレビューをしていただいた.さらに、これらの物性発現を担っていると考えられるフラーレンアニオンラジカル塩に関して、嵩高いカチオンで安定化されたいくつかの単結晶の育成とその物性について説明をしていただいた.
 最後に時間のゆるすかぎり講師の先生方と室温での有機強磁性体の可能性とその応用について自由討論を行った.
 第8回は,6月12日(水曜日)日本橋柳屋ビル B1F 桜会議室 (13:30〜17:00)において「光磁気記録における高密度化のための新展開」というタイトルで行う予定である.
(東邦大・齊藤敏明)